「プライバシーの概念は幻想にすぎない」アマゾン元幹部の著書から

フェイスブックのデータ流用問題で、インターネット上のプライバシー侵害が改めてスポットライトを浴びているが(「プライバシーは死んだ」ウォールストリート・ジャーナル
、「過去のプライバシーの概念は幻想にすぎない」というのがネット業界に住む人たちの常識のようだ。昨年、日本で翻訳出版された『アマゾノミクス』(文藝春秋)という本が、その常識を語っているので紹介したい。

著者のアンドレアス・ワイガンド氏は、アマゾンの元チーフサイエンティスト。「創業者ジェフ・ベゾスとともに顧客にとって使いやすいプラットフォーム構築に尽力。今日のアマゾンの基礎を作り上げた」と紹介されている。

同書の中で、ワイガンド氏は「過去100年にわたり、われわれはプライバシーを大切にしてきたが、そろそろそれが幻想にすぎないことを認めるべきだ」と言う。そのあとの展開を引用しよう。

「ブランダイス判事はたしかにすばらしい概念を生み出したが、それはデータ量が限られ、コミュニティが孤立し、コミュニケーションにコストがかかる時代の産物であった。当時は誰かがあなたの意に沿わない写真を公表するのを止めるのも簡単だった。
だがいまや時代は変わった。匿名性は民主主義の前提条件などではない。プライバシーの幻想に浸り、過去のルールが未来もわれわれを守ってくれると期待するより、今日の状況と未来の可能性を見すえた新たなルールを作るほうがいい」(78~79㌻)。

伝統的な意味でのプライバシーは、むしろ積極的に公開したほうがいいと考えており、出生を届けたら、子どもにフェイスブックデビューさせなさいと言う。

「なぜ、フェイスブックはいまだに13歳未満にはアカウント登録を認めないのだろうか。すべての赤ん坊が生まれたときに、フェイスブック・アカウントを作るほうがずっと合理的だ。そうすれば誰もが固有の、信頼すべき個人識別情報を持てるようになる」(78㌻)。

「過去のルール」に代わる、彼が言う「新たなルール」は具体的には説明されていないが、ルールを支える理念となるものは「透明性」と「主体性」であるという(21㌻)。
「主体性」について述べている個所では、「企業が無力な消費者に何を買うべきか指示する時代は終わった。まもなく個人が企業に対して、何を提供するべきかを伝える時代になるだろう」(25㌻)とイメージしているものは伝わってくる。

インターネットの黎明期から、著作権侵害、セキュリティー、そしてこのプライバシー侵害はネットにつきまとう問題だった。二つの侵害については、ルールが少しづつ形成されてきたようだが、いまだに誰もが常識とみなすようなルールは確立されていない。

ただ、こんな記事を読むと(「フェイスブック、個人情報流出問題でも利用状況変わらず」ロイター)、(「業績好調のFacebook、GDPRやデータ流用問題は影響せず」DIGIDAY)社会の流れは、ワイガンド氏の主張を認める方向に動いているのかなと思える。