トランプ貿易政策は雇用を生むより減らしてしまう

トランプ政権発の保護主義はどう着地するのだろうか。報復のエスカレートが世界経済を不況に陥れるのか、あるいは予想よりもソフトな形で決着するのか。ウォールストリート・ジャーナル紙は、悲観を伝えている

トランプ政権が仕掛けた追加関税など保護主義策を調べてみたら、実は、昨年4月19日の鉄鋼輸入調査からその準備が始まっていた。アメリカの貿易政策の動向は、このジェトロの鈴木敦さんという人が丹念に調べて「ビジネス短信」という欄で発信してくれている。大統領令など情報の原典のURLもきちんと明記してある。感謝!

商務省が、鉄鋼やアルミニウムの調査を終えたのが今年1月。海外からの輸入品がアメリカの安全保障を脅かすという結論をトランプ大統領に提出した。関税を決める権限は大統領にあり、決定のあと3月23日から関税がかかるようになった。

輸入自動車については、5月23日に商務省の調査が始まり、結論が出るのは、鉄鋼、アルミの例にならえば、年を越えた2月ごろになるのだろうか。

こうした保護主義政策の実施は、アメリカ経済、世界経済にどんな影響を与えるのだろうか。その目安を前述のウォールストリート・ジャーナル紙の記事が書いている。

アメリカの全輸入額は年間2.36兆ドルだが、鉄鋼290億ドルアルミ130億ドルで、全輸入額の2%、国民総生産の0.2%とそれほど大きな数字ではない。

これに中国への制裁やいま調査中の輸入自動車をカウントすると、全輸入額の15%に達するという。最近、一時保留にしていたEUとカナダ、メキシコ製品への関税も決めたので、15%という数字はさらに大きくなるだろう。

鉄鋼、アルミ業界の雇用は増えるかもしれないが、輸入鋼材、アルミを使っている自動車や缶メーカーは、原材料値上げで利益が縮小する結果、雇用削減に迫られることになる。
「オックスフォード・エコノミクス」という調査会社は、鉄鋼、アルミで1万人雇用増、金属使用産業で8万人減、差し引き7万人減と予測しているという。
2017年
4.19 鉄鋼輸入調査開始
23 アルミニウム輸入調査開始
8.14 トランプ大統領が中国の技術移転策や知的財産権の侵害に対し、1974年通商法301条に基づいた調査の実施検討を指示する大統領覚書に署名
8.18 米通商代表部(USTR)、大統領の覚書を受け検討の結果、調査開始決定

2018年
1.11 商務省、鉄鋼調査結果提出
1.17 商務省、アルミニウム調査結果提出
3.8  大統領関税決定
3.22 大統領、1974年通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を命じる大統領覚書に署名 追加関税実施は、関税対象品目公表→パブリックコメント(期間60日)が終了後の6月初旬以降
3.23 鉄鋼製品、アルミニウムへの課税開始
4.3  USTR、中国への追加関税対象品目リスト(約1300品目、500億ドル相当)を発表
4.5  中国の対抗措置発表を受け、米がさらに500億ドル上乗せをUSTRに指示
4.16 商務省、中国通訊(ZTE)がイラン、北朝鮮への経済制裁に違反したとして、輸出特権を否認すると発表
5.19 米国と中国政府が通商摩擦の解消に向けた共同声明を発表
追加関税を保留
5.23 商務省、自動車・同部品の輸入調査開始
5.29 中国への追加関税対象品目の最終リストを6月15日に公表と発表 追加関税実施保留を撤回
さらに、中国企業の対米投資規制等を6月30日に公表予定
(ジェトロ、新聞記事などから作成)