貿易紛争 焦点は、米中衝突と自動車関税 ①

米トランプ大統領が3月に鉄鋼とアルミニウムの輸入品に追加関税を決めたことで始まった貿易紛争。それからほぼ4カ月が経って見えてきたのは、今後の紛争の世界経済への影響と行方を左右するのは、①米中衝突、②自動車関税の二つのようだ。

米中衝突が焦点となるのは、まず米国の対中赤字額が群を抜いて大きいからだ。その額は3757億ドルにのぼり、2番目の対EU1530億ドルの2倍以上ある。続く対メキシコ762億ドル、対日697億ドルなどの合計額を上回っている(Bloombergの図)日米貿易摩擦の火が燃え盛っていたころから一貫して対日赤字額は1000億ドルを超えたことはないので、対中赤字額の巨額さが体感できる。

対外赤字は必ずしも国の損失ではないのだが、「貿易赤字=敗北」と信ずるトランプ大統領には対中赤字額は我慢のならない数字なのだろう。

中国に対しては、500億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を課すことを決め、6日にはそのうち340億ドル分について発動される。ただ、両国経済への影響は、500億ドル分すべてについて発動されても、中国ではGDPの0.2%程度、中国から同率の報復があっても米国ではごくわずかなものにすぎないという(前述のBloomberg記事)。

トランプ大統領は、さらに、2000億ドル規模の輸入品への関税を2回実施することも示唆しているが、中国に対する制裁は、EUや日本と異なり、貿易赤字削減だけではない、台頭する中国つぶしの意味も込められていそうだ。

トランプ政権の「中国つぶし」の代表的な存在が、ピーター・ナバロ通商製造業政策局長だ。トランプ陣営の主要幹部では唯一経済学博士号を持ち、大統領選では、現商務長官のウィルバー・ロス氏とともに陣営の貿易・経済政策を作成した。

ナバロ氏は、貿易赤字が経済成長を損なうと考える保護貿易主義者であるとともに、『米中もし戦わば』(文藝春秋)という著書がある、対中警戒論者として有名だ。実際、対中制裁関税は、「ナバロ氏の長年の目標でもある」とメディアで指摘されたりしている。

対中警戒感は、ナバロ氏のように政権内だけでなく米国社会にもある程度の共感を得られているようだ。6月に実施された世論調査では、今回の対中追加関税に対して、52%が賛成している。特に共和党支持層では75%の高い支持を得ている。日本などの同盟国に対する鉄鋼、アルミ追加関税に対しては31%の賛成しか得られていないのと対照的で、中国に対する米国民の感情を浮き彫りにする結果だ(三菱UFJ銀行レポートの表2)。

先週には、中国資本の対米投資に対してトランプ大統領が姿勢を軟化させたと伝えられた(ウォールストリート・ジャーナル)。「ナバロ氏やロバート・ライトハイザーUSTR代表などの国家主義的な一派がひとまず終わりを迎えることになる」といい、「米中貿易紛争を抑制するよう取り組んでいたスティーブン・ムニューシン財務長官やローレンス・クドロー国家経済会議(NEC)委員長らにとっては勝利だ」と同紙は見ている。

米中経済衝突は、中国の南シナ海進出や米朝核交渉などともからんでくるだろうから、今後も情勢は変化していくだろう。折々に伝えていきたい。