米-トルコ関係悪化の源 福音派の出自

米国とトルコの緊張関係の源は、トルコによる米国人牧師の拘束だ。この牧師がキリスト教福音派であることからトランプ大統領が解放に熱心なのだとみられている(日経新聞)。

拘束中のアンドルー・ブランソン牧師は、2016年7月、トルコで軍の一部が起こしたクーデタ未遂事件への関与が疑われている。

米国では、福音派は、国民の4分の1を占め、政治家にとっては味方につけたい勢力。2016年の大統領選挙で、トランプ氏はその福音派から81%の支持を受けた。敵をはっきりさせるトランプ氏にとっては、失いたくない支持基盤だ。11月6日の中間選挙も控えている。

トランプ大統領は、福音派の支持を引きとどめる政策を打ち出し続けている。

▽2017年5月、税法上、禁じていた宗教団体による選挙候補への支持、支援を行政命令で解除した。トランプ大統領は、これを「宗教の自由」としている。

▽同性婚カップルからのウェディングケーキ作成を宗教的信念を理由に断ったケーキ屋の訴訟をサポートしている。

▽米政府による対外支援金を、中絶に関わる事業に用いることを禁止した。

▽エルサレムをイスラエルの首都と認め、国際社会の反対を押し切って米大使館を5月にテル・アビブから移転させた(東京財団 梅川健氏論考)。

福音派は特定の教派ではなく、保守的なキリスト教信仰、それもプロテスタントの教派横断的な集団であるという。「聖書の内容を忠実に守る」、「新たに信仰を誓うボーン・アゲインの体験」、中絶反対、同性愛反対などが共通項のようだ。

教派横断的な集団ではあるが、トランプ政権には、福音派指導者たちによる非公式の諮問委員会があり、ホワイトハウスとは特別の関係が築かれている。福音派寄りの政策決定は、この委員会のメンバーたちのパイプを通じて練られているのかもしれない。

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福音派=原理主義者ではない

福音派の出自や考え方については、藤本龍児氏が「SYNODOS」に寄せた原稿が詳しい。以下の記述は、ほとんど藤本氏の原稿に基づくものだ。

南北戦争(1861~65年)後に、米国のプロテスタントは、近代思想に対する評価をめぐってリベラル派と保守派に分裂したという。この二つが、現代の「宗教リベラル/宗教保守」の源流だそうだ。

ニーチェが、「神は死んだ」と著書『悦ばしき知識』の中に書いたのは1882年だったから、米国プロテスタントは近代思想、科学が神の生死にかかわる問題として、深刻にかつ素早い反応を見せていたことになる。

近代思想に対する評価といえば、たとえば、進化論を連想する。聖書には、人間の始まりは神が想像したアダムとイブと書かれている。宗教保守は、聖書を文字通りに解釈するので、サルを先祖とする進化論は否定せざるをえない。

このため、宗教保守は、「時代錯誤で反動的な考え方」という見方が広がっていった。宗教保守は、発行していた雑誌、「The Fundamentals」にちなんで「原理主義者」と呼ばれるようになった。

しかし、保守派内部でも、反省の声が起きたらしく、1940年代には、刷新運動が起こる。その際に、長老派、会衆派、バプティストといった教派を越えて連帯した人びとが、現代の「福音派」だそうだ。

こうした経過を踏まえると、第一に、福音派と原理主義者を同一視することには問題があり、第二に、所属する教会や教派、組織によって福音派を規定することは難しいことがわかる。現代の福音派とは「保守的な信仰理解を共有する教派横断的集団」のとらえるのが妥当なようだ。

そして、福音派が米国の選挙のカギを握ったのは、トランプの時代だけに限らない。

1976年の大統領選では、ジミー・カーターが大統領候補として初めて「ボーン・アゲイン」を公言して、福音派から支持をうけ、下馬評を覆して勝利した。タイム誌はこの年を「福音派の年」と呼んだ。1980年の大統領選挙では、福音派がレーガンの勝利に大きく貢献したという。

欧州の反対よりも福音派

EUとの貿易紛争では、トランプ大統領が態度を和らげたことから休戦に向かったので、NATOの一角で軍事上、重要な位置にあるトルコにも圧力を弱めるとの見方も出ている。しかし、欧州の反対を押し切ってまで、エルサレム首都認定、大使館移転を果たして、福音派を喜ばせたトランプ大統領だから、福音派がからむ今回の問題では、一歩譲るとは考えにくいのではないか。

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