クリスパー・キャス9に二つのハードル① がんになりやすい

遺伝子の自在な書き換えを可能にし、ノーベル賞確実と言われる「クリスパー・キャス9」にとって、ハードルとなる問題がここ数カ月の間に目立ったので、ニュースをまとめてみた。

ひとつは科学上のハードルだ。
6月11日、スウェーデンのカロリンスカ研究所などのチームが、「クリスパー・キャス9」で遺伝子を改変した細胞はがん化する恐れが高まるとの研究成果を、米医学誌に発表した。

日経新聞の記事をやや意訳して紹介しよう。
研究チームは、人の網膜細胞を使って実験したが、細胞にはクリスパーの作用に適合する細胞と抵抗する細胞があるようだ。

適合する細胞は、効率よくゲノム編集できるが、がん抑制遺伝子が働かない異常があるという。

一方、抵抗する細胞は、がん抑制遺伝子が働くが、ゲノム編集に失敗しやすい。失敗して、細胞が死んだり、成長が止まったりすると、がん化の恐れが高い細胞が多く残ることになる。

クリスパーを使うことで、がんが発生しやすくなるようで、研究チームは「人の治療に使う場合は注意が必要だ」としている。

なお、この日経の記事には「クリスパーという分子を入れた際に」という表現が出てくるが、これを読むと「クリスパー配合」の溶液があり、それを入れるというイメージが湧くが、実際もそのイメージ通りらしい。

クリスパー・キャス9は、「DNAのメス」と称されたりもするので、メスやハサミで切り取るイメージもあるが、これはあくまでも比喩だという。

これをKDDI総研の小林雅一氏が、わかりやすく説明している。
「実際のクリスパーは、それに必要な化学成分を含む「試薬(液体)」である。科学者らは、この試薬を様々な生物の受精卵など細胞に注入したり、場合によってはシャーレ(ペトリ皿)に入れた細胞にかけるだけで、ゲノム編集を行うことができる。あらかじめ狙った通りにDNAを切断したり、改変できたかどうかは、この作業の2~3日後には知ることができる」(「ゲノム編集とは何か」21㌻、講談社新書)。

DNAが消えてしまう?

ハードルの話に戻ろう。科学上のハードルは、もうひとつある。7月17日に、英国の研究チームが、「クリスパー・キャス9」を使うと、DNAの一部が意図せずに消えてしまう恐れがあること英科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」に発表した(朝日新聞)。

この研究は、英遺伝子研究機関ウェルカム・サンガー研究所(Sanger Institute)のチームによるもので、マウスとヒト細胞にクリスパーを使ったところ、「広範囲の」遺伝子変異を「高い頻度で」引き起こす恐れがあることが分かったという(AFP)。

研究チームのアラン・ブラッドリー(Allan Bradley)氏は「DNAに生じる変化が、これまで著しく低く見積もられていた」「遺伝子治療にこの技術を検討している人は、有害な影響の有無を注意深く調べる必要があり、慎重にことを進める姿勢が求められる」と言う。

記事は、「変異が有害か無害かはまだ明らかになっていない」と書いているが、広範囲で遺伝子が変わってしまうのならば、それが人体に無害なわけがないと素人は思うのだが。

相次いで発表された、この二つの科学上のハードルは、記事を読む限りは、いずれも人体に深刻な影響を及ぼしそうだ。クリスパー・キャス9にどこまでもつきまとう問題だとすれば、ハードルと言うよりも欠陥、あるいは副作用と呼び直さねばならないが、そうならないことを願いたい。

もうひとつ、別の種類のハードル=規制のハードルがあるが、次回にアップしよう。

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