「トランプ弾劾」はできるのか 中間選挙がハードル

側近二人の有罪で、オンライン賭けサイトで、トランプ大統領の弾劾予想が急伸したことを伝えたが(Kobaちゃんの硬派ニュース)、では、弾劾にどれだけ現実性があるのかを調べてみた。

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弾劾訴追できるのは下院だけ

弾劾(impeachment)には、まず11月6日の中間選挙で民主党が下院の過半数を制する必要がある。というのは、弾劾は、下院が検察庁役となって訴追し、上院が裁判するからだ。下院で過半数の賛成を得て、訴追しなければ、弾劾裁判は始まらない仕組みになっている(合衆国憲法第1章2条5項「弾劾の訴追権限は下院に専属する」、同3条6項「すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する」)。

下院は任期2年で435全議席が改選される。現有勢力は、共和党236、民主党193、欠員6となっている。過半数の218を押さえるには、25議席増やさねばならない。その可能性もあるらしいが、選挙見通しについては、また別の機会にまとめることにして、ここでは、弾劾のプロセスについて話を先に進める。

では、どんな誤りを犯すと弾劾されるのか。これも合衆国憲法で規定されており、第2章第4条に「大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる」とある。読んでわかる通り、大統領の弾劾のために特別に設けた条文ではなく、すべての文官を対象にしている。

弾劾の元になる過ちだが、「軽罪」というのが最後に出てくる。あまり聞き慣れない言葉だが、原文は「Misdemeanors」。英辞郎で調べると、「不品行、非行」の訳語とともに、法律用語として「軽罪」の訳語も載っている。軽犯罪と理解してよいようだ。

つまり、それほど悪質でない刑法犯罪でも下院の判断次第で弾劾訴追できてしまうわけだ。1998年12月にクリントン大統領が弾劾されたときは、「偽証」と「司法妨害」が理由だった。偽証は、女性研修生、モニカ・ルインスキーと「不適切な関係」を持ちながらウソをついて否定したために罪を問われた。

もし、トランプ大統領が弾劾されるとすれば、同じように「偽証」「司法妨害」、さらに「権力濫用」の適用もありうるという(マイナビニュース)。その背景には、ロシアの大統領選挙介入がからんでいるわけで、トランプ陣営がロシアと関わっていたとしたら、その重みは「不適切な関係」の比ではない。訴因の理由としては十分だ。

ただし、事実ならばだ。トランプ大統領が関与したという証拠が出てこない限りは、弾劾はできない。いまのところ、元側近二人の罪からはトランプ氏を弾劾できるだけの材料は出てきていない。

トランプ陣営の選対本部長だったポール・マナフォート氏の脱税と詐欺については、トランプ選対に加わる前のことだ。マイケル・コーエン氏の選挙資金違反は、トランプ氏の関与をほのめかしているが、弾劾にまで至る材料は表に出ていないようで(FNNプライム)、コーエン氏の弁護士が「証拠はある」「コーエン氏は知っているすべてを話す」と議会に調査を促している。

したがって、今後の焦点となるのは、コーエン氏の行動だ。コーエン氏は、「トランプファースト」から「自分ファースト」に方針を変えたようなので、これまで明らかにされていない新事実が彼の口から出てくるかもしれない。

弾劾は可能でも有罪は無理

有力な証拠が集まり、それに基づいて下院で過半数の賛成があれば弾劾が決まり上院に回される。上院では、連邦最高裁長官が裁判長、上院議員が陪審員となって協議し、上院出席議員の3分の2以上の賛成が得られれば、有罪となり、大統領は罷免される。後任には、副大統領が就任する。

11月の中間選挙で、民主党が上院の改選35議席を全部奪ったとしても、3分の2以上にはならない。弾劾で有罪にしようと思えば、共和党議員の賛成票が必要になってくる。トランプ大統領が、共和党主流派とそりが合わないとはいえ、これは難しいのではないか。

ここまでの話を整理すると、トランプ大統領が弾劾-罷免されるまでには、①中間選挙での民主党の過半数オーバー勝利、②トランプ大統領の関与を示すコーエン氏の証言、証拠、③上院での共和党議員の罷免賛成、といったハードルがある。①、②は、今後もその可能性をチェックしていくが、ありえないことではないだろう。でも、③はゼロに近いのではないか。

とはいっても、「不適切な関係」のようなプライベートなことからスタートしても、大統領のクビがかかる弾劾にまで発展するのだから、大統領弾劾には、合理性を超えた政治の力が働き、世論の高まりが左右する。たとえば、民主党が、上院での賛成などハナから得るつもりもないのに、訴追することだってありうるのだろう。弾劾されるだけでも、トランプ政権にはダメージだ。

その類の分岐点で、どちらに転ぶかを判断するには米政界、世論に精通した人でなければ無理だろう。だから、やたらと断定するような見方は、希望的観測で語っているか、まゆつばものの類と思った方がよさそうだ。

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