米中対決 3番目の戦場「一帯一路」

8月に新政権が成立したパキスタンへのIMF支援をめぐり米中の角逐に目を離せない。習近平主席肝いりの一帯一路が背景にあるからだ。南シナ海、貿易紛争に次いで、米中の3番目の戦場は、一帯一路になりそうだ。

パキスタンは、財政難に直面しており、IMF(国際通貨基金)への救済申し立てが間近と見られている(毎日新聞)。

財政難の一因になっているのが、中国の一帯一路の目玉にもなっている、パキスタン初の地下鉄「オレンジライン」の建設だ。ウォールストリート・ジャーナルは、こう伝えている。

「中国国営企業が資金を融通し、建設も手掛けるオレンジラインは、同国北東部の都市ラホールを高架で走る路線。中国はパキスタンで計画する総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ計画の第一弾として、建設費用20億ドルを投じて空調完備の地下鉄を開通させるつもりだ。これによりムガル帝国および大英帝国の植民地支配が残した過去の遺物を一掃し、中国が世界的に展開するインフラ攻勢のショーケースになることが期待された」

「中国による計画開始から3年、パキスタンは債務危機に近づいている。オレンジラインのような大規模事業のために中国からのローンや輸入が急増したことが一因だ。パキスタン当局はオレンジラインを運営するには政府の補助金が必要になると話す」

パキスタンが検討しているIMF支援要請をめぐっては、IMFを間にはさんでの米中の角逐が起きている。ポンペオ国務長官は7月末に、パキスタンの財政悪化は中国からの資金借り入れが一因で、「(IMFの資金を)中国の債権者や中国に返済するために資金を使う根拠はない」と語った(日経新聞)。

また、対中強硬派の上院議員16人も8月に、ムニューシン財務長官とポンペオ国務長官に書簡を送り「今後数カ月の間にIMFがパキスタンを救済すると見込まれることを踏まえ、以下の質問への回答を求める」と迫った(ウォールストリート・ジャーナル)。

同紙によると、書簡は「中国の広域経済圏構想「一帯一路イニシアチブ(BRI)」に起因する問題に対応するため、どのようにIMFに圧力をかけるつもりか」と問いかけている。

そして、上院議員たち、パキスタンを超えて一帯一路そのものを問題にしている。「米国はIMFに最も貢献している国として、救済によって、現在進行中のBRI関連プロジェクトの継続や新たな同プロジェクトの開始を確実に阻止するために、どう影響力を行使できるか」と、一帯一路プロジェクトを阻止することを前提にした質問になっている。

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だましの手口は続かない

以前から、中国に対しては、関係する途上国を借金漬けにしたうえ、返済できないと、建設したインフラ施設をカタに取るという批判が浴びせられていた。AFPは4日、「一帯一路で膨らむリスク」という記事で「しかし5年後の今、一帯一路は返済能力がない他国に中国が仕掛けた「債務のわな」ではないかとの懸念が広がっており、習氏は自らの肝煎りの構想を弁護する状況に陥っている」と伝えている。

「債務のわな」の一例としてあげられるのがスリランカだ。2010年に始めた南部ハンバントタ港の建設に、中国の融資で多くをまかなった。しかし、返済に窮し、港の株式の80%を中国国営企業に99年間貸与することで決着したという。港を事実上、中国に渡すことで破綻を免れたのだ(産経新聞)。

相手国を借金漬けにして資産を狙うとしたら、まるで悪徳高利貸しの手口だが、どうしても、狙った国を従わせたいとしたらありうるかもしれない。しかし、一帯一路のような国家戦略の場合、そうした手口はいずればれてしまうので、よほど脇の甘い政府でない限りやらないはずだ。

なので、中国と相手国がウィンーウィンで、うまくいっているケースもあるのではないか。しかし、アメリカの対中強硬派にとっては、むしろウィンーウィンになれば、中国の勢力が拡大するので、歓迎したくない。
まあ、そんな理解でいいんじゃなかろうか。