日立会長に異を唱え DeNA南場「日本は情報革命に惨敗」

今からちょうど2年前に開かれた政府系会議(第1回未来投資会議)の議事要旨に書かれている、大企業トップ2人の発言が興味深い。意見が真っ二つに分かれているからだ。ネットで検索しても2人の発言を扱った記事は出てこない。生のニュースではないけれど、知られずなままなのは勿体ないので紹介しておきたい。

発言者のひとりは、新興IT企業、DeNAの創業者で、いまも会長を務める南場智子氏だ。南場氏は、安倍首相はじめ居並ぶ閣僚を前に「残念ながら、今の中西会長のお話とは少し角度が違うかもしれないが、これまでの情報革命における覇権争いに日本は惨敗したと感じている」と述べた。

中西会長とは、中西宏明・日立製作所会長のことで、南場氏の直前にこんな発言をしていた。
「私は、こういう議論が始まるときに、第4次産業革命とか、デジタライゼーションに日本は一歩遅れているのではないかという議論が先行することに大変不満を持っており、そんなことはないのだとお伝えしたい。とりわけオートメーションと、そこにITをうまく使っていくことに関しては、日本は実は先進国である」(2人の発言はこちら

どちらの認識が正しいのか。大局的に見れば、南場氏ではないか。局地戦で見れば、中西氏の見方も正しいのかもしれないが、局地戦で「勝った、勝った」と喜べるのは一時だけで、泣きを見るのは、その後の世代だ。

南場氏は、中西氏の見方をきっぱりと否定すると「収益だけでなく、データの蓄積、生殺与奪までを、アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックなどに握られている。一番の責任は我々企業にあり、経営者として責任を重く感じておるところ」と続ける。日本のIT企業の舵取り役が方向性を誤ったことを認めての懺悔だ。

「惨敗」の具体例には思い当たるものはある。いまでは当たり前の「クラウド」サービスのことだ。まだ出始めのころ、「クラウドって何」から調べたことがあったが、参加プレイヤーは、マイクロソフト、IBM、アマゾンなどアメリカ企業ばかりだった。なぜ、日本のIT企業は参入しないのだろうと不思議に思ったことがある。

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クラウドに完全出遅れ

いまや世界のクラウドサービスの市場規模は、2018年に1600億ドル(約17兆7700億円)に達すると見込まれている。米調査会社IDCは、2016~21年までに年率平均21.9%と高い伸びを続け、21年には2770億ドルまで成長すると予想している(日経新聞)。

巨大市場に育ったクラウドサービスだが、そこに日本企業は影も形もないといっていい。
総務省が発行している『平成28年版情報通信白書』を見ればわかる。「クラウドサービス市場における上位20社の市場シェア」が載っているが、グラフを見ると、トップ5は、IBM、アマゾン、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、グーグルと米企業が独占している。クラウドサービスが出始めのころのトレンドがそのまま今も続いている。

そのあと、欧州、中国企業を間にはさみながら、ようやく19位に日本企業のNTTが顔を出す。シェアはたった0.8%という寂しさだ。クラウドサービス市場は、局地戦レベルの争いではないと思うが、まさに惨敗を喫している。

自社のデータをIBMやアマゾンなど外部企業のデータセンターに保存するというスタイルには抵抗を覚える企業が多く、ビジネスにならないと読んだのだろうか。

クラウドサービスを利用する側としては、ハッカーなどに侵入されるという不安が大きかったはずだが、いまや、世界最大の米コンサルティング会社、アクセンチュアは2019年までに内部のITおよびITアプリケーションの90%をクラウドに移行すると表明しているほどで、市場を伸ばすとともにセキュリティ技術を確かなものにしていったようだ。

日本のIT企業経営者は、世界のデジタルの潮流を読み誤って、急成長市場に出遅れてしまったのだが、同じようなことがいまも起きていなければよいのだが。

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