為替介入を禁じたUSMCA協定を読んでみた 日米通商協定のモデルにするそうだ

今週初めの株価を大幅に下げたムニューシン米財務長官の発言。長官は13日の記者会見で、来年1月にも交渉が始まる日米通商協定に通貨安誘導を禁じる「為替条項」を盛り込むと語った。「米、日本に為替条項要求」という新聞の見出しだけを見ると、まるで日本を狙い撃ちしている印象を受けるが、記事をよく読むと、同長官は「日本だけを名指しして為替条項を盛り込もうとしているのではない」と語っている。

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日本だけが狙い撃ちされているのではない

この発言で、ムニューシン長官の頭にあるのは、NAFTA再交渉の結果、新たに結ばれた「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」だ。そこに「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」と明記され、ムニューシン長官は、USMCAでの為替条項が、日本との貿易協定でモデルになると会見で述べているからだ(日経新聞)。

朝日新聞は、為替条項を「日本を含め、どの国との通商協定にも盛り込むことを目指すと述べた」と伝えている。

USMCAは、これまで米国がメキシコ、カナダで生産された自動車を輸入する際のゼロ関税の扱いについての報道が中心で、為替条項の記事はほとんど見かけなかった。日本のメディアも市場関係者もムニューシン発言が飛び出してからあわててこの3カ国協定を検索したのではないか。

Kobaちゃんも検索してみた。USMCAの正式名称は、「United States-Mexico-Canada Agreement Text」。本文は34章(Chapter)もある。為替条項に該当するのは、33章の「マクロ経済政策と為替レート問題(MACROECONOMIC POLICIES AND EXCHANGE RATE MATTERS)」のようだ。

この章だけでも6ページあり、章で使われる用語を定義した1項から8項(Article)に分かれている。マクロ経済委員会(3カ国のマクロ経済政策や為替政策を検証する)設置や2国間交渉が必要になった時の手続きなどが書かれているが、ミソになるのは、第4項( Exchange Rate Practices)の「2.」らしい。

「協定参加者(3カ国)は、以下のようにしなければならない(should)
(a)市場が決める為替レートの体制を維持する(b)為替市場に介入するなど競争的な通貨切り下げを控える(c)経済のファンダメンタルズを強化する。それがマクロ経済と為替レート安定の条件となる。」

ただし、次の「3.」に、「為替介入が行われたら、すみやかに相手国に知らせ、必要ならば協議しなければならない」と、場合によっては、介入を認めるような一文もある。あくまでも「控える」で、投機勢力に仕掛けられた時など、やむを得ぬ場合は介入OKということなのだろうか。

麻生財務相は為替条項を否定

ムニューシン発言について、麻生財務相は16日の会見で、日米間の貿易交渉に現実問題として為替を入れることは基本的にないと述べた(ブルームバーグ)。

トランプ政権は、日本と欧州連合(EU)、英国との新たな通商交渉を早ければ来年1月から始める。米側交渉の主導は財務省ではなく、USTR(米通商代表部)が握るだろうが、ムニューシン財務長官が為替条項を「どの国との通商協定にも盛り込むことを目指す」と述べている限り、まったく議題にのぼらないとは考えにくい。麻生財務相の発言は気休めに聞こえるのだが。