憲法修正が必要なのに一片の大統領令で変更しようとするトランプ

アメリカで生まれた人はアメリカ国民になれるという出生地主義をトランプ大統領は大統領令によって廃止しようとしている。出生地主義は合衆国憲法修正第14条で定められた権利だ。憲法を修正しないで一片の大統領令で変更できちゃうのだろうか。

変更できないというのが法学者たちの定説で、与党共和党幹部のライアン下院議長は早速、「大統領令で出生地主義に基づく市民権付与を廃止することはできない」と批判した。

これに対し、トランプ大統領はツイッターで「ライアン氏は何も知らない出生地主義について意見を述べるのではなく、下院過半数の確保に集中すべきだ」とやり返した(CNN)。ライアン氏は来年1月の任期満了に伴い議員を引退する予定だが、いまはれっきとした共和党有力議員。共和党など眼中にないようなトランプ大統領の独走ぶりだ。

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解放奴隷に市民権を付与した

出生地主義を定めた「修正第14条は1868年、南北戦争終結後に採択された。修正第13条が1865年に奴隷制を廃止した後、修正第14条が米国で生まれた解放奴隷の市民権を確定した」
「1868年以前の連邦最高裁判決は、アフリカ系米国人は決して米国市民になれないと判断していた。修正第14条が、そうした一連の判例を覆した」(BBC)。

トランプ大統領のような移民を好ましく思わない強硬派にとって、この出生地主義は「違法移民を引き付ける磁石」のようなものだという。「妊娠中の女性が違法に米国に入り出産する、いわゆる「妊娠ツアー」や「アンカー・ベビー(米国で生まれ米国社会定住のための『碇(いかり)=アンカー』の役割を果たす赤ちゃんの意味)」と侮蔑的に呼ばれる行為を促進している」と主張する(同上)。

しかし、それを廃止するには憲法改正が必要で、米司法省のサイトにはそのことがはっきり書かれているという。
「司法省のサイトに掲載された同省の公式見解も、国籍に関する条項は憲法改正によってのみ変更が可能になるというものであり、同省の法律顧問局(OLC)は、変更を目的とした通常法案や大統領令は「一見して憲法違反になる」と結論付けている」(ウォールストリート・ジャーナル)。

なので、トランプ大統領が廃止の大統領令を出した場合「早急に法的な困難に直面することが確実だ。裁判所が執行を差し止める命令を出す一方で、行政権限に関するトランプ氏の異例な主張が裁判で争われる公算が大きい」(同上)

法的にはかなり無理筋の主張を展開するのは、11月6日の中間選挙に向けてのアピールだろうが、出生地主義はカナダでも中道右派の保守党が廃止を主張している(前出BBC)。英国のEU離脱も移民の増加が背景にあった。

日本では、外国人労働者に少し門戸開放する出入国管理法改正案が開会中の臨時国会に提出され、与野党から事実上の移民政策ではないかと懸念の声が上がり、それに対し安倍首相が「移民政策ではない」と否定する展開になっている。

門戸が狭すぎる日本から勝手なことは言えないが、アメリカは自由で開放的なアメリカであってほしい。