月末の米中首脳会談に向けて調整するも APECでは対立して宣言出せず

米中貿易紛争は、11月30日~12月1日に予定されている米中首脳会談に向けて調整が進められている。

15日にはロス米商務長官が「米中首脳会談がうまく行けば、貿易摩擦解消に向けた将来の交渉の「枠組み」で合意する可能性が高い」(ブルームバーグ)と発言、16日にはトランプ大統領が「中国は142項目の行動計画を提出してきた」ことを認め、「大きな懸案がいくつか残っており、現時点ではまだ受け入れられない」としながらも「取引で合意するかもしれない」(日経新聞)と合意に前向きな姿勢を見せている。

ロス長官は、米中両首脳が「液化天然ガス(LNG)の輸入量がどうのこうのという細部に立ち入ることはなく、全体像を話し合うことになるが、うまく行けば将来に向けた枠組みが設定されるだろう」と、首脳会談は大枠を決める場であると位置づけた。

そして、今回の首脳会談では完全合意は無理であるばかりか、「1月までに完全な公式合意に至ることはないとわれわれは確信している」とトランプ大統領の見通しよりも時間を要すると判断しているようだ(前出ブルームバーグ)。

トランプ大統領が言う「142項目」とは後述するように実は8月に中国から提示されていた。米側が5月に中国に対して要求した8項目への暫定的な回答だった。

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米側の8項目要求

米の8項目要求とは、①2000億ドルの対中貿易赤字を削減する、②過剰生産を促すような「中国製造2025」対象産業に対する不当な補助金支給、その他の産業支援の中止。技術移転につながるような政策・行動の抑制。知財や機密情報の不正取得支援を中止する、③米国政府によるセンシティブな分野や安全保障にとって重要な分野への投資規制に対し、反対や報復措置を取らない--などだ(丸紅経済研究所、図表2)

これに対し、中国側は8月中旬の交渉の際に、この142項目を、①30~40%は直ちに実施が可能、②別の30~40%は時間をかけて交渉可能、③残りの20%は安全保障あるいはそれ以外の重要な問題に関係するとして交渉の対象外とする--の3つの分野に分類して米側に提示した(ウォールストリート・ジャーナル)。

しかし、中国は個別の項目については、どの分野に属するかは明らかにせず、米側は「リストを示すべきだ」と不満を持っていた。

142項目をリストにして提示か

今回は、米の希望通り、中国がリストを提示したようで、トランプ大統領は記者団に「中国が広範な行動リストを提出してきた。142項目だ。非常に完成度が高い」と語り、合意にかなり近づいた様子がうかがわれる(前出日経新聞)。

ただ、「大統領は「重要な4、5項目が解決されていない」と述べて「私にとって、まだ受け入れられるものではない」とも指摘した。中国側は関税引き下げなど市場開放策を示したものの、米国とのハイテク分野の覇権争いで欠かせない「中国製造2025」の抜本的な見直しは拒んでいるとみられる」(同上)。

米中首脳会談が、アルゼンチンで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて実施される。それまでに米中間での調整が続くだろう。米側の対中強硬派である、ボルトン大統領補佐官、ナバロ国家通商会議(NTC)委員長らが中国側のリストに納得せず合意に反対して、調整が難航する可能性もある。

実際、ナバロ委員長は9日の講演で「グローバリストの億万長者らは中国政府の影響行使の一環として、アルゼンチンでのG20会議を前にホワイトハウスに全面的な攻撃を仕掛けている」と発言。狙いは「大統領に何らかの合意に至るよう圧力を掛けることだ」としながらも、実際には交渉における大統領の立場を弱めており、「何も良い結果は生まれない」と述べ、「ウォール街は交渉に口を出すな」と敵意あらわな発言をした(ブルームバーグ)。

APEC始まって以来の異例な事態

さらに、パプアニューギニアで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は18日閉幕したが、「中国がアメリカを念頭に保護主義の風潮を批判するなど両国の意見の対立が際立ち、初めて首脳宣言を出せないまま閉幕」した。首脳宣言を出せないのは、1993年に首脳会議が始まって以来初めての異例な事態(NHK)。

米中の調整の困難さを象徴する出来事になった。最終的には、トランプ大統領が決めることだろうが、対中警戒論が高まると、大統領が「降りるに降りられない」状態になってしまう(Kobaちゃんの硬派ニュース)。

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