メイ首相、不信任のヤマは越えた 奇跡は起こせるか

12日夜(日本時間13日早朝)、英保守党の信任投票で、メイ党首は同党下院議員317人のうち過半数の200人から信任を得て、党首、首相を続けることになった(BBC)。

信任採決のヤマを越えたとはいえ、メイ政権とEUとの間で合意したEU離脱案の下院通過は依然として難しいとの見方が大勢だ。保守党内で、下院採決で反対投票するのは、少なくて40人、多ければ90~100人と見られていたが、党首信任投票では、それを上回る117人が不信任に回った。

メイ政権によるEU離脱合意案は、英国の独立を保ちたい離脱強硬派からもEU残留派からも不評だ。強硬派からやり玉にあげられているのが、合意案にあるアイルランド島の国境問題に関する取り決めである。

アイルランド問題とは

アイルランド島は、北海道よりやや大きな面積で、南部はアイルランド共和国、北部は英国領、北アイルランドになっている。英国がEUを離脱すれば、通関手続きなどを行う国境施設を設けねばならないが、英・EUともそれを避けてとりあえず合意した。

具体的にどうするかは、今後、英・EU間で交渉することになっている。今回の合意案には、その交渉が決裂した場合に備えた「バックストップ(保障措置)」が盛り込まれている。どういう内容かというと、アイルランド島の国境問題が解決されるまで、英国全体が関税同盟にとどまるという案だ(東洋経済オンライン=みずほ総研・吉田健一郎氏が筆者。以下の内容は、吉田氏の記事に拠っている)。

このバックストップ案に対し、保守党の離脱強硬派は、英国が永久にEU関税同盟にとどまる可能性につながり、ブレグジットが有名無実化すると反対している。

もともと、保守党強硬派は、7月の閣僚会合で合意したチェッカーズ案に対しても、EU寄りすぎると批判していた。人の自由な移動を制限するようなEU単一市場からの離脱項目も含まれているが、貿易については現状に近いと見なしたのだ。この時、デイビスEU離脱相とジョンソン外相が辞任したが、デイビス氏は「EU関税同盟や単一市場から離脱するという保守党の公約実現を困難なものにしている」との辞任書簡をメイ首相に渡している。

北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP、下院議席10)も、メイ政権に閣外協力しているが、やはり合意案に反対している。DUPは離脱を支持し、英国との統一を重視しているため、国境管理の厳格化を主張している。しかし、バックストップに従い、関税同盟にとどまれば、北アイルランドがEU化して、北アイルランドと英国の統一が保てなくなるとしている。

最大野党はソフト・ブレグジット志向

最大野党の労働党(下院議席257)も合意案に反対している。労働党は、ブレグジット自体は認めているが、EUと現状に近い関係の維持を志向するソフト・ブレグジット派だ。党執行部は、EU単一市場と関税同盟の効果を失わないブレグジットを主張しており、単一市場からの離脱を前提としたメイ政権の合意案には同意していない。

離脱強硬派からは、単一市場にとどまる合意案と批判され、ソフトブレグジット派からは単一市場離脱の原則を崩さない合意案と批判される。まあ、野党は政府に反対する立場だから、そうなっても不思議ではないけど。

スコットランド民族党(SNP、同35)、自由民主党(LibDem、同12)はEU残留派で、2回目の国民投票を狙っているので、合意案が成立してブレグジットが軌道に乗ってしまうのを阻止する勢力と言えよう。

労働党には、EU離脱派もいるので、合意案賛成議員が出るかもしれない。しかし、メイ信任200という数字だから、合意案成立に必要な過半数320に達するには労働党の半数に近い120が必要で、無理な相談だろう。

こうして見てくると、下院で過半数を獲得するには、保守党の離脱穏健派と労働党を全面的に巻き込んだEU寄りのソフト・ブレグジットへの路線転換しか残されてないように見える。しかし、それはメイ首相がこれまでの自身の行動を否定するようなものだから、できないだろう。下院採決は先送りされたまま新たな日程は決まっていないが、20日から下院は休暇に入り、来年1月7日に再開する。残された日々で奇跡は起こせるのだろうか。

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