唐突な米軍のシリア撤退の謎 トランプの心変わり

 シリアからの米軍撤退というトランプ大統領の決定は唐突で、米政府高官らも知らされていなかった。米国の中東戦略に根本的な変化が起きたのか、いまなぜなのか、わかりにくい決定だった。しかし、マティス国防長官の辞任を招くなどマグニチュードの大きい政策転換のようなので、19日の撤退発表後の報道を見ながら、ひも解いてみた。

 もともと、トランプ大統領は、イスラム国家(IS)を壊滅したら早急にシリアから米部隊を撤退させると大統領選の公約としていた。今年4月にも盛んに撤退論を繰り返した。

 シリアやアフガニスタンからの撤退論はトランプ大統領に限ったことではなくて「中東で戦争を何十年やったって、結果は出ない」
、それよりも、ロシアとある程度握ってでも、これからますます強国となる中国に備えるべきだという意見が米国内にあるという(YAHOO!ニュース、宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)。

 しかし、これまではマティス国防長官ら政権内の安全保障チームが撤退に強く反対していた。トランプ大統領も、イランとの核合意を破棄し、イランの中東における影響力拡大を阻止するのにも効果があるため、2000人規模の部隊をシリア領内に残していた(BLOGOS、佐々木伸・星槎大学大学院教授)

エルドアン大統領との電話がきっかけ

 そんな中、トランプ大統領の米軍撤退の心情をその気にさせたのは14日のトルコ、エルドアン大統領との電話会談だったという。エルドアン氏は、イスラム国(IS)はすでに敗北しているのに米軍がなぜシリアに駐留しているのかを問い詰め、問題点を指摘したところ、トランプ氏はいら立って「ならば自由にやってくれ。こちらはもうやめた」と言い放ったというのだ(CNN)。

 トルコはNATO加盟国であり、中東政治を巡っては、シリア、イラン、ロシア勢とは敵対する米国勢の一員で、ならば米軍駐留には賛成のはずだ。そう簡単にいかないのが、シリア国内のクルド族の存在だ。独自の国家を持たない最大の民族と言われるクルド族は、
シリア国内で米軍の支援を受けながらISやアサド政権と戦っている。その一方で、トルコ南部でも独立運動を展開しており、トルコ軍と衝突しており、エルドアン政権にとってはトルコ国内を不安定化させる火種でもある。

14日の電話でもエルドアン大統領は「シリア領内のクルドはテロリストだ」とトランプ大統領に言ったという。エルドアン大統領は、
12日に米軍が支援するクルド人部隊をシリアから掃討する作戦を「数日以内」に開始すると発表していた。しかし、19日の電話会談後には、「数カ月中に」と延期している(YAHOO!ニュース=AFP)トランプ大統領との間で、何らかの取引が行われた結果かもしれない。

 トルコの兵器購入もからんでいるという。戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・オルターマン・中東部門ディレクターは、撤退の決定がトルコが長く望んでいたパトリオットシステムの購入をトランプ政権がようやく認め、それを米議会に伝えた時と一致することに注目している。武器売却という商業的な理由のために、ロシアやイランの勢力拡大、あるいはIS残存勢力の回復を招きかねない戦略的決定であることをオルターマン氏は疑っている(Washington Post)。

 トルコと言えば、サウジが自国記者を殺害した事件で、サウジを追及する姿勢を見せていた。シリアからの撤退を条件に「トルコがサウジの責任追及をやめる」約束を取り付けた可能性も指摘されている。さらに、ロシアゲートや不倫もみ消し事件など身辺に迫る厳しい追及をそらす意図も疑われている(同上BLOGOS)。

 パウエルFRB議長の解任話が出たり、上院が可決したつなぎ予算案のサインを拒否して政府機関の閉鎖を招いたり、トランプ大統領の傍若無人な振る舞いにブレーキをかける道はないのか。

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