中国製造2025 ① 本音は非公式文書「グリーンブック」に  

米中貿易紛争に関連して、最近よく見かける用語が「中国製造2025」だ。中国を製造大国から製造強国へ発展させるよう訴えた習近平政権の産業政策だが、海外企業を締め出す政策として悪者扱いされている。

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公式文書は「市場開放」繰り返す

日本語訳があるので(日中経済協会)、読んでみたが、それほど露骨に国家中心の経済や外資排除を推進するような表現は出てこない。むしろ、市場機能を尊重するような個所がいくつも見られる。

中国製造2025(Made in China 2025、以下2025と略)を批判的にとらえる記事やリポートはしばしば国内外の市場シェア獲得目標のことに触れているが(たとえば日経新聞)、翻訳原文には該当する数字が見つからなかった(中国製造2025については、ここで内容を詳しく書いても冗長になるので、簡単な紹介を別稿で文末にまとめた)。

おかしいなと思い調べてみると、昨年9月のブルームバーグの記事で疑問が氷解した。中国政府の本音は、2025の後に出された非公式文書「中国製造2025重点領域技術ロードマップ(The Made in China 2025 Major Technical Roadmap)」に出ているのだ。

「ロードマップ」は、表紙が緑色だったことから別名グリーンブックと呼ばれている。2025発表の5カ月後の2015年10月に発布されている。

グリーンブックには、下記のような数値目標が書かれているという。256㌻と部厚なので業種別に目標への道筋などが書かれているのかもしれない。以前は、「中国工程院」の英語ホームページからダウンロードできたらしいが、海外からの批判を浴びたためか、いまはページが見つからない。

国内シェア   2025(%)
農業機械 95
新エネルギー車 90
携帯通信機器 80
産業用ロボット 70

世界シェア2025(%)
集積回路 56
汎用機 40

国内シェアは国産品比率ということだから、海外企業の締め出しを意味する。2025では、「製造業の開放」という言葉が出てくるが、非公式文書ではそれを否定しているわけだ。中国は、「一連の目標に拘束力はなく非公式なもの」と説明している(前出ブルームバーグ)。世界シェアは努力目標とも受け取れるし、市場開放して、中国と海外企業が競争した結果、中国企業が高いシェアを獲得することも否定はできない。

現実は外資排除 EV用バッテリー

しかし、実際に、いまもEV(電気自動車)用のバッテリーで、事実上、海外メーカーを締め出している。その結果、パナソニックが中国のリチウム電池メーカー、CATL(寧徳時代新能源科技)に抜かれてしまった(Kobaちゃんの硬派ニュース)。そんな現実を見ると、数値目標と中国政府の介入は容易に結びつく。

ブルームバーグ記事は、グリーンブックの存在について、「公式文書(2025を指す)に産業目標が載ると外国政府だけでなく世界貿易機関(WTO)の監視も強まる可能性があるため、代わりにグリーンブックを使った」という外国のロビー団体や一部通商専門家の推測を伝えている。表と裏の顔を使い分けた疑いが強い。

その推測が当たっているとすれば、中国にはまだ大国としての自覚も責任も覚悟も備わっていないと言える。大国の条件を求めるにはまだ早すぎることは、中国製造2025の出自を知れば合点がいく。次回にそのことをまとめる。

「中国製造2025」を読んでみた

まず、冒頭で「国際競争力のある製造業を確立する事は、我が国の総合国力の向上、国家安全の保障、世界強国の建設に必要不可欠な事である」と述べる。「世界強国」を外せば、「日本はモノづくり大国を目指せ」風レポートの一節にも見える。

市場の機能にも肯定的だ。「改革を全面的に深化させ、資源配置における市場の決定的な役割を生かし」
「政府の簡素化、権限の委譲、行政許認可制度の改革を進め」

市場開放を一層進める姿勢もはっきりさせている。
「引き続き開放を拡大し、グローバル資源と市場を積極的に活用して~製造業の開放発展レベルを引き上げる」
「一般製造業を更に開放し、開放構造の最適化を図り、開放レベルを引き上げる。次世代情報技術、ハイエンド装備、新材料、バイオ医薬など、ハイエンド製造分野への外資導入を誘導し」

国家が前に出てくるのは、こんな個所。
「国家科学技術計画(特定プロジェクト、基金など)によって重要コア技術の研究開発を支援する」
「既存のチャンネルを十分に生かし、財政資金による製造業支援を強化する。~重点分野に重点的に投資し」

国産品の数値目標が出てくるのは、コラム3の「2020年までに、40%のコア基礎部品と主要基礎材料の自主確保を実現し」「2025年までに、70%のコア基礎部品と主要基礎材料の自主確保を実現」の個所だけである。