AIは雇用を奪うのか そのインパクトはどの程度なのか①

「AI(人工知能)は雇用を大きく変えるが、人の雇用を奪うだけではない、増やす可能性もある」。メディアでは、AIが雇用を減らす面にスポットを当てるが、実際のインパクトはそんな大局観でよさそうだ。

「雇用を増やす」論の根拠

「雇用を増やす」論の支えになっている二つの根拠をまずはっきりさせてしまおう。

ひとつは、AIの導入で、職場が機械化、自動化されることによって新しい仕事が生まれるという直接的な効果だ。

もうひとつは、間接的な効果で、こんな経路だ。AI導入→生産性向上→価格低下→実質所得向上→支出上昇→景気上昇→雇用増。蒸気機関やコンピューターなど新しい技術が普及していくときには、こんなサイクルになるという。

一方、「雇用を奪う」論の元祖は、2013年9月の発表後、すっかり有名になったオクスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ研究員(Osborne,Frey)の論文だ。「米国人の総労働者数の約47%は、今後10年から20年のうちに機械に代替される可能性が70%を超える」とのショッキングな推計がAIへの不安感を世界中に広めた。

この論文以降、「雇用の未来」に関する論文が増えて、主要なものだけでも100本を超え、細かいものまで含めれば数百本にのぼるという。ちょっとした研究ブームの火をつける論文になった(経済産業研究所、岩本晃一、田上悠太)。

オクスフォード大の論文は「極端な値」

日本でもオズボーン・フレイ論文はさんざん取り上げられたからAIと雇用と言えば、思い出すのはこれだろう。これしかないのが普通のはずだ。しかし、上記岩本・田上両氏は、他の論文をいろいろ読み込んで、概況を把握したところ、「その(二人の)推計値は最も極端な値となっている」(4㌻)、「(二人が)予測したほど極端な事態には陥らないとする見方の方が多い」(7㌻)と判定している。

たとえば、ドイツのZEW研究所が検証した試算では、機械に代替される労働者の割合は47%ではなく9%だった(7㌻)。

ずいぶんかけ離れた数字だが、大きく差があるのは、「機械に代替された」をどう解釈するかの違いにあるという。ZEW研究所の方は、「仕事(work)」を段階的に多くの「作業(task)」に分解し、その作業一つひとつが、いつ機械に代替されるかを検証し、100%代替されたときをもって「機械に代替された」と判定する。より厳密なわけだ。

どちらの解釈に妥当性があるかは、企業がどの段階で人を解雇する気になるかにかかっている。新聞界でも、企業の決算発表記事や、高校野球の戦評記事にはすでにAIが導入されているが、だからといってすぐに記者数を減らしたとは聞かない。

しかし、一方で、ゴールドマン・サックスにいた600人の株式トレーダーは、AIの自動取引プログラムに追い出されて今では2人しかいないという現実もある(ゴールドマン・サックスがグーグル化しつつある)。これは100%代替の例と言えるだろうが。

相反するデータを見せられた時、「真ん中あたりじゃないの」と見当をつけるのが素人の悪いクセだが、ここも47%と9%の間の20%台ということでとりあえずの大局観としておこう。でも、少なくとも47%という数字は鵜呑みにしなくてもよさそうだというのはわかった。

ここまでは、程度の差はあれ、AIは雇用を奪うという話だが、雇用が増えるという見通しもある。ダボス会議を開催する「世界経済フォーラム」が昨年9月に発表したり、ボストン大学の先生が書いたりしてます。次回に書きます。

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