AIは雇用を奪うのか そのインパクトはどの程度なのか③ いまや過去の神話

AI(人工知能)への警戒感の始まりは、「米国の労働者の半分が10~20年後に機械に奪われる」という2013年9月に発表されたオックスフォード大学のオズボーン、フレイによるレポートだった。

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新規の雇用増は考慮していない

「半分」というのは正確には47%だが、この数字、ちょっと一方的すぎるのだ。AI導入によってなくなる仕事だけに目を向けて、雇用増については考慮していない、計算していないからだ。前回ブログで紹介した世界経済フォーラムやPwCのレポートは増加分を差し引いた結果として雇用増を予測している。

オズボーン准教授本人も、「技術的な可能性を示しただけ、雇用増の部分は一切考慮していない」と認めている。実は、この本人のひとことは、前々回ブログで紹介した経済産業研究所(RIETI)の岩本晃一氏と統計数理研究所の田上悠太氏のレポートに載っている(4㌻)。2018年5月のレポートだ。本人に質問したところ、その答えが返ってきて「拍子抜けした」と書いている。

さらに調べてみると、2016年11月のRIETIのサイトに岩上氏によるオズボーン准教授への聞き取り記事が載っていた。その中で、オズボーン氏は、「賃金水準もありますし、ロボットはまだかなり高価ですので、技術があったとしても、労働を代替するまでには至らないかもしれません。また、規制や一般の人達の反対といったことも考慮に入れていません」と語っている。上記「技術的な可能性を示しただけ」とは、この価格や規制については考慮してないことを指すのだろう。

そして、「もっとも重要なのは、新規に創出される雇用について考慮に入れていないということです」と自分たちのレポートの「もっとも重要な」弱点を正直に認めている。

メディアが伝えてきたイメージと違うので意外だった。当時のメディアの記事がどう伝えていたのか確認したくて調べたが、ネット上には見つからなかった。おそらく、雇用増を考慮していないことを指摘した記事はなかったと思う。当時、経済週刊誌の編集部にいたKobaちゃんは、このテーマを扱ったことはなかったが、47%の数字に目を奪われて、もう片方の新規雇用増には深く考えなかった。

「AI脅威論」は過去の神話

当時の記事を探しているうちに見つけたのが、「あれから4年、既にオズボーン論文はほとんど否定されており、反証論文も出尽くしている状況です。「人工知能脅威論」とは、過去にあった神話」と指摘しているITmediaの優れた記事だ。すでに昨年4月に書かれている。

筆者はデコムR&D部門マネージャー、松本健太郎氏。記事は、オズボーン論文の画期的な面を評価しつつ、新たに生み出す雇用については考慮していないなど不足点を指摘したOECDのレポートなどを紹介している。

そして、メディアは、仕事が奪われることばかりを強調しすぎて、きたとその報道ぶりに疑問を投げかけている。

ただ、世の中が自動化、デジタル化に進むのは間違いなく、それに「対応できない人から失業する可能性があります」と断言している。だから、必要なことは、デジタル化に対する教育支援、再教育であるという。

松本氏が最後に結論付けている、「いまや「人工知能に仕事が奪われる」という文章のリード文は、ものすごく恥ずかしいのです。世界は既に「デジタル化に向けて私たちは何を学び直すべきか?」を話しているからです。2周どころか、3周、4周回遅れの議題だと言えます」という認識が正解なんだろう。オズボーン論文は、機械化、自動化の進展ぶりに世の中の目を向けさせる功績はあったが、いつまでもそれに引きずられてAIを警戒するのではなく対応する段階に来ているということだ。

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