米朝首脳会談失敗 特権階級の失望大きく、正恩氏の権力基盤にひび?

手ぶらで帰国することになった金正恩・北朝鮮労働党委員長。今回の首脳会談失敗は、トランプ大統領よりも正恩氏にダメージが大きいだろう。正恩氏の権力基盤を揺るがしかねず、米国よりも北朝鮮が今後どんな行動に出るか要注目だ。

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国民には「決裂」を知らせず

ハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わったことを北朝鮮国民にいったいどう伝えるつもりなのか正恩氏の心を推し量った。何しろ、異例とも言えるほど国内に会談をアピールしていたからだ。

朝鮮日報は、アピールの様子をこんな風に伝えている。
「以前であればハノイに到着して初めて報じられるはずの金委員長の動きが、平壌をたった瞬間から報じられた。専用列車に66時間乗っていくという、まともでないパフォーマンスも繰り広げた。ハノイの宿泊先で開いた作戦会議の場面も報道を許した。労働党の機関紙『労働新聞』は「そのように一日千秋の思いで待っていた、敬愛するわが元帥様のニュースに接した国中で、一段と熱い激情の波が揺らめいた。国中の人民の心がわが元帥様へ、元帥様がおわす遠き異国の地へと絶えずはせている」とたたえた」

制裁緩和の成果を携えて凱旋帰国できるとよほどの自信があったのだろう。しかし、思惑通りに事は進まなかった。「元帥様は、米国の不当な要求をはねつけた」と強気の姿勢で体裁を繕うのもありかなと想像したが、「決裂に終わったことは伝えない」というごまかしの道を選んだ。

国民の関心を最大限に拡大させただけに、さすがにベタ記事でごまかすわけにはいかず、党の機関紙『労働新聞』は1面に扱っているという。「第2次朝米首脳対面第2日会談進行/わが党と国家、軍隊の最高指導者金正恩同志が/米合衆国大統領ドナルド・ジェイ・トランプと/再び対面して会談された」という見出しと、二人の会談の写真を4枚も載せ、2面には拡大首脳会談や散歩の場面など9枚の写真を掲載している(中央日報)。

さらに、両首脳が建設的な対話をし、生産的な対話を続けていくことにしたと伝えながら、肝心の部分はカット。合意文に署名できないまま会談が「決裂」したことに言及していない。朝鮮中央通信も同様な扱いだ(同上中央日報)。

これでは、いかに報道の自由、言論の自由のない環境で育った北朝鮮国民でも、「で、制裁はどうなったの?」と疑問に思うだろう。
事の顛末はやがて口コミで伝わっていくはずだ。

今後数週間の北朝鮮は要注意

それが正恩氏の権力基盤を揺るがす可能性もある。朝鮮日報の別の記事は、こう伝える。
「韓国政府周辺からは「金正恩委員長が帰国後、何事もなかったかのように世論を収拾するのは難しいのではないか」との指摘も聞かれる」

「国家安保戦略研究院のキム・インテ責任研究委員は「金正恩が列車移動し、リアルタイムで国内に動向を伝えたのは会談の成果を確信していたからだ。北朝鮮に対する制裁緩和を期待していた北朝鮮の特権階級は会談決裂に対する失望が大きいだろう」と指摘する」(同上朝鮮日報)。

そして、こんな指摘も。「チョン・ソンフン元統一研究院長は「首領の体面をひどく傷つけたことになり、誰かが責任を負わなければならない」」(同上朝鮮日報)。つまり、正恩氏が会談失敗の責任を外交担当者などに負わせるかもしれない。粛清と呼ぶレベルにまで広がるのか。

最悪のケースは、核ミサイル実験の再開も想定はできるが、中国からも強く反対されるし、国民を豊かにする道は完全に閉ざされるからありえないとは思う(CNN)。

小さな変化だが早速現れている。正恩氏がベトナム滞在の予定を繰り上げて2日午前に帰国することになった(聯合ニュース)。早く帰国して対米戦略の練り直し、求心力の維持を図るべく対応したいのだろう。慌てている様子がうかがえる。いずれにしても、「今後数週間の北朝鮮の反応は重要だ」(同上CNN)。