米国のファーウェイ叩きを習近平は喜んでいる

中国の通信機器大手、ファーウェイ(Huawei)の裏には中国政府がついていると思いがちだが、実は、ファーウェイは「中国企業のなかで共産党の支配を巧みに回避してきた民間企業の代表」なのだという。だから、心の中で中国共産党一党支配に反発している国民にとってファーウェイはシンパシーを感じるらしい。

その一方で、習近平国家主席は、今回の米国によるファーウェイ叩きは民間企業支配の千載一遇のチャンスと見ている。そんな通念を覆す見方が有力な中国専門家の間から出ている。

「ファーウェイについてほとんどの報道は先入観に支配され、本質を見誤っている」。元日本経済新聞論説委員で亜細亜大学教授の後藤康浩氏は、そう断ずる。確かに報道からは、ファーウェイは中国政府の手先となって米国の先端技術を盗み取っているイメージが伝わってくる。しかし、後藤氏によると実際は「中国にはもともと大唐電信、巨龍通信、ZTEなど有力な国有の通信機器メーカーがあり、民間企業のファーウェイは政府・共産党からに差別され、排除されてきた」というのだ(Yahoo!ニュース=News Socra)。

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共産党に冷遇され海外市場へ

後藤氏が記者として北京に駐在していた1990年代末から2000年代初頭にはファーウェイは国策プロジェクトから外されていた。ファーウェイがグローバル企業に成長したのは国内市場で優遇されなかったため海外市場で勝負をかけるしかなかったからという。

ファーウェイは売上高の10%以上を研究開発に継続して投資してきたのも、自社技術の発展に頼らざるを得なかったからだ。技術者の職人魂が生きている会社のようで、ファーウェイ傘下で、世界で最も速い通信用半導体を開発したハイシリコン(海思)の女性CEO、何庭波氏は研究者と言われるのを嫌い、自らを「工程師(技術者、エンジニア)」と称している。中国に精通している遠藤誉・東京福祉大学国際交流センター長の著書、『中国製造2025』に書かれている(同書 102㌻)。

また、ファーウェイをモデルにする新興企業のエンジニアの中には、問題を解決するためならば、寝袋でオフィスに泊まり込むのもいとわない者もいる。「ファーウェイ流」を見習ってのことだ(EETimes)。

人気のファーウェイ、嫌われるZTE

そんな自らの力で逆境を切り開こうとするファーウェイの気風は中国の若者に人気で、「ファーウェイを応援している。ファーウェイは頑張っている」という反応が多いという。同じようにトランプ政権に叩かれた国有企業のZTEは嫌われており、「ZTEはバカなんですよ。誰もZTEには同情していません」と異口同音に冷たくあしらうらしい(同書89㌻)。

習近平主席は若者たちの反応と逆である。後藤氏はこう書く。
「中国政府・共産党は今回の事件で、全力を挙げてファーウェイ擁護に乗り出しているが、それはこの機に乗じてファーウェイなど成功した民間企業への影響力を高めようとしているだけだ。国有企業優先の習政権にとって米国のファーウェイ叩きは民間企業支配の千載一遇のチャンスなのである」。

習主席は、ハイシリコンがファーウェイ以外に半導体を供給しない、外販しないのが気に入らないらしい。ZTEなどは、米クアルコムやインテルから半導体を購入しているので供給をストップされればスマートフォンなどの製品を作れなくなる。

ハイシリコンがZTEに外販すれば調達は安定し、習政権が目指している国産比率の上昇も達成できる。
遠藤氏によると、「習近平は「俺の言うことを聞いてハイシリコン社の半導体チップを外販し、中国政府に開放しろ」と迫っているが、任正非(ファーウェイCEO)は応じていない」(Newsweek)。

「そこで習近平はHuaweiの孟晩舟CFOがアメリカの要求によりカナダで逮捕されたのを「チャンス!」とばかりに受け止めて、Huaweiのために「中国政府として」カナダやアメリカに抗議している。こうすれば、いくらHuaweiでも、中国政府の軍門に下るだろうと計算ているのである」(同上Newsweek)。

前回ブログで、ファーウェイが米合衆国憲法を根拠に米国政府を訴えたことを書いたが、後藤氏、遠藤氏の見方が正しければ、政府に頼らず自立の精神に富んだファーウェイと自由を尊重する米合衆国憲法は実は相性がいいのかもしれない。

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