天然ガス、価格マイナスの衝撃が東芝にも LNG売却破談

東芝が米国産LNG(液化天然ガス)事業の売却先とあてにしていた中国の民間ガス大手、ENNグループから売買契約の解除を求められた。そんな東芝再建に難題となるニュースが流れている。

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中国ENNのドタキャン

契約は昨年11月8日に結ばれたもので今年3月末までに売買を完了させることになっていたが、手続きが終わらず延び延びになっていた。まさに土壇場になっての契約解除だが、その背景には、天然ガス価格の暴落が関係ありそうだ。何しろ、場所によってはマイナス価格になっているのだから。

マイナス価格の事実を知ったのは在野の経済学者、室田泰弘さんの4月7日付のブログだった。
米南部テキサス州バーミアン盆地はエネルギー関係者ならば知らぬ者がいないシェールガス・オイルの主要生産地だが、そこで産出される天然ガスの価格がマイナス2.5ドル(100万BTU当たり)を付けたのだ。最終的にはマイナス1.95ドルで史上最低価格だった。

米国では21世紀に入りシェールガス・オイル採掘の新技術「高圧破砕」により、生産が急増、2018年の米国の原油生産量は45年ぶりに世界最大となったようだ。天然ガスも2017年に純輸出国になるほど生産を増やしている(日経新聞)。

しかし、バーミアンの現場では、天然ガスを運ぶパイプラインの容量を超えてガスが産出されている。行き場のないガスは空中に放出したり燃焼させることはできない。環境保護のためだろう、規制がかけられている。生産業者は仕方なく余った天然ガスをパイプライン業者に金を払って処理してもらっている。これがマイナス価格の正体だ(室田氏ブログ)。

バーミアンだけでなく、ガス価格の推移を広く見渡すと、ニューヨーク市場では、天然ガス価格は2.5ドル(百万BTU当たり)を少し上回る水準にある。直近のピークは昨年11月終わりごろの4.6ドルで、その時よりも半分近く下がっている。昨年11月と言えば、東芝とENNが契約を結んだ時。この時の水準は4年ぶりの高値を記録していた(pwalker)。その後の価格急落ぶりにENNは、採算の見通しが暗くなって腰が引けたのではないか。

契約解除の本当の理由は

もっとも、東芝の発表資料によると、ENNは契約を断った理由としてENNは、天然ガス価格の下落を挙げていない。恐らく、価格下落は契約解除の理由にできないのではないか。

ENNはこう言ってきたという。「株式譲渡契約の完了期限である2019年3月末を渡過し、かつ短期間で条件充足することは出来ないため本件の継続が多大な不確定性を生じさせる」

「条件充足」とは、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)の承認、中国の国家外貨管理局の認可、ENNの大株主である新奥控股投資有限公司の承認を指している。米国は近年、中国資本の対米投資に厳しくなっている。

エネルギーは安全保障に関わる戦略産業でもあるため審査のハードルは高いかもしれない。ひょっとしたら審査が難航しているから断念した可能性もある。しかし、日経新聞は、まだ承認が得られていないことについて、「米政府機関の一部閉鎖で対米外国投資委員会(CFIUS)の審査手続きが遅れた」と伝えている。

契約解除の真相を伝える続報を待とう。