5Gで中国に負ける-米国があせる理由

5Gの商用化サービスで、この4月に「世界初」の名乗りを上げたのは、米国通信大手のベライゾン・コミュニケーションだった。

ICTの世界をずっと牽引してきた米国だから、5G世界初はさもありなんのニュースだった。ところが、今後の5Gの発展については米国内では危機感が強まっている。

光ファイバー未整備が泣き所

米国には、今後、需要が一気に拡大していくだろう基地局など通信インフラを供給する通信機器メーカーがない(Kobaちゃんの硬派ニュース)。だが、危機の背景はそのことではなかった。

問題はもっと根源的なところにある。5G通信に不可欠の光ファイバーの普及が圧倒的に遅れているのだ。ハーバード大学法科大学院のスーザン・クロフォード教授は、こう指摘する。

「新しい大容量サーヴィスを試せるサンドボックス(実験場)の環境も、試験展開するための巨大市場も米国には存在しない。なぜなら、米国はネットワークの終端、つまり家庭や企業に到達するネットワークの「ラストマイル」を光ファイバーにアップグレードすることに注力してこなかったからだ。米国の現状は、アジアや北欧よりも遅れている」(Wired

5Gは無線だから、スマホやタブレット端末ならば、有線の光ファイバーなんて不要のはずだが、無線を飛ばす基地局と基地局の間は光ファイバーでつなぐ必要があるという。銅線でつながれていたら、5Gのスピードは宝の持ち腐れになってしまう。

「実のところ無線通信のデータは、その9割が有線で送受信されている。基地局がカヴァーするセル同士は、ケーブルによる通信でつながっているからだ。そして5Gでは、このケーブルを光ファイバーに置き換える必要がある」(同上Wired)。

光ファイバーが必要なのは基地局同士で、家庭や企業への「ラストマイル」は不要にも思えるが、たぶん知識不足ゆえだろう。

日本では、光ファイバー整備率は98.3%(世帯数に対する率)に達している。それでも十分でないと、総務省は、光ファイバー未整備地域をなくすために2019年度は52.5億円の予算を用意した(事業構想)。

通信、米中ブロック化

5G整備の基盤がぜい弱な米国が意識せざるを得ないのが5Gインフラ設備も5G用半導体も供給できるようになった中国だ。とりわけ、中国政府が「一帯一路」プロジェクトと通信インフラ整備を結びつける計画的な戦略を進めていることに同教授は警戒する。中国は現地政府とユーラシア大陸を横断する多数の鉄道路線建設を進めているが、そこに光ファイバーケーブル敷設もセットになっているからだ。

国内の14億人近い市場に加え、「一帯一路」のプロジェクトに沿ったグローバル市場で光ファイバー網を大規模展開していくことによって、「中国政府が、これらの光ファイバーに接続できる5Gの通信機器を、ファーウェイをはじめとする一部の中国メーカー製だけに制限する可能性がある」と同教授は指摘する。

米政府の制裁により、ファーウェイは米国市場から締め出されるとともに、米国製品を使えなくなり、ピンチにあるが、もしそれを乗り越えたら、今度は逆に、米企業が中国国内と中国の影響力が及ぶ地域から締め出されてしまうというわけだ。5G通信網は米主導と中国主導の二大ブロックに分かれてしまう格好となる。

5Gネットワーク国有化論

米国も光ファイバー整備の遅れを取り戻さねば、5G商戦には勝てないという声がようやく強まってきている。米政府周辺では、昨年初めから、5Gネットワークの「国有化論」が浮かんでは消えているという(ITmedia)。

トランプ大統領は4月12日、ホワイトハウスで開いた5Gのイベントで、「5Gの競争に米国は勝たなければならない」と語り、同席した米連邦通信委員会(FCC)のパイ委員長は、全米で5G網を整備するための204億ドル(約2兆3千億円)規模の基金を設けると発表した(同上ITmedia)。遅ればせながら5Gインフラ整備に政府が音頭を取り始めた。

クロフォード教授も、公的にコントロールされた光ファイバー網を碁盤の目のように張り巡らせ、それを民間業者が借りられる仕組みを提案している。

もっと派手な挽回策として、ベライゾンが、5Gインフラを提供するノキア(フィンランド)かエリクソン(スウェーデン)を買収し、さらに5G半導体を提供するクアルコムを買収--なんてことが起きないだろうか。

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