トヨタの「EVアピール」 中身はハイブリッド路線の堅持

「トヨタ、中国電池大手と提携 電動化計画5年前倒し」という6月7日の日経新聞の見出しを見て、「あれっ?」と思った。

ほんの2カ月前、ハイブリッド車(HV)の特許無償提供の発表の際、先端技術担当の寺師茂樹副社長が「電動化に移る現実的な解がハイブリッド車ではないか」とあくまでもトヨタお得意のHVを核に据えた電動化を明言していたからだ(Kobaちゃんの硬派ニュース)。

ところが、記事の見出しは、EV化の推進を連想させたので、短期間のうちに路線転換したのだろうか、と疑問に思ったのだ。トヨタのサイトで記者会見を見ると、どうもそうではなかった。

トヨタは日経の記事が掲載された7日に「電気自動車(EV)の普及を目指して」と題して寺師副社長がプレゼンテーションを行った。その際の資料を見ると、「5年前倒し」というのは、2030年に世界販売の半数にあたる550万台以上を電動車にすることがトヨタの目標だったが、現実はこの目標を上回るスピードで電動化が進展しており、おそらく、5年近くは先行しそうだという意味だった。

つまり、EVの導入を意図的に早めるのではなくて、導入ペースが早まっているので結果的に5年早まるということだった。

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電動化の主力はハイブリッド

プレゼンテーション後の会見で、そのことがさらにはっきりする。記者たちの関心もトヨタの路線転換にあり、しょっぱなから、「なぜ、いまEVに特化した発表を行ったのか」「EVに対する姿勢が変わり、EVを主力にするようになったのか」との質問が出た。

寺師副社長は、「EVに対する姿勢が変わったわけではない」「トヨタはEVに遅れてあせっているのではないかと言われるが、(EV化は)従来考えてきたスケジュールそのもの」「軸足がEVに移ってということではない。FCVをないがしろにする気はない」(ビデオの33分15秒あたりから)と答えている。さらに、「EVが2030年から5年ぐらい早くなるという話がでてくるが、EVとかFCVではなくハイブリッドの台数が前に出るというイメージ」(もうひとつの記者会見を記録したビデオの18分50秒あたり)とHVが主力であることを明言している。

この日、明らかにしたトヨタのEV市場投入計画も「EV主力」とはほど遠いものだった。国内では、2020年に超小型EVを販売する。軽自動車よりも小さいサイズで、全長2.5メートル、全幅1.3メートルの二人乗り。最高速度60キロで、1回の充電で約100キロ走行できる(発表資料)。

買い物などの日常の近距離移動や近距離の巡回、訪問などの業務利用を想定している。車と言えば、自転車しか持たない我が家からすると便利そうだなと思うし、そうした需要は確かに掘り起こせば拡大するかもしれない。しかし、現在、トヨタが占有するセダンなどの主力市場とバッティングしない領域での商品に限定したように見える。

セダンやSUV、ミニバンなどの主力製品は、中国、米国、欧州などグローバル市場で先行させるようだ(発表資料)。

MaaS時代に最適なのはEV

従来路線と変わっていないのになぜプレゼンテーションを行ったかというと、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)時代にはEVが最適であり、トヨタがクルマの会社からモビリティ・カンパニーへに変わると宣言しているものの、これまでEVの情報発信をやらなかったので、電動化の全体像の中でEVの位置づけを広く知ってもらうためだという。

よく言えば、現実を踏まえた、悪く言えばブレークスルーのない地味な電動化というトヨタの姿勢は変わっていないようだ。