政府の本音は「徴用工問題がらみの経済制裁」か 「輸出規制」今後の展開

日本の半導体材料の対韓輸出規制は、WTO(世界貿易機関)の場でも日韓の主張がぶつかり合い(日経新聞)、対立の出口が見えない。今回の措置は、あくまでも韓国政府の輸出管理の甘さが招いたものと専門家は指摘するが、文在寅大統領は、徴用工問題への対抗措置、報復と捉えており、長引きそうな雲行きだ。

7月1日に発表された対韓輸出規制は、半導体を製造するときに必要なフッ化ポリイミド、レジスト(感光材)、エッチングガス(フッ化水素)の3品目について、4日から個別の審査や許可を必要とするようにした(日経新聞)。禁輸するわけではない。ただ、審査が個別になったことで時間がかかり、許可が3カ月まで長引くという。

さらに8月をメドに、韓国を安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定からはずす(同上)。

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韓国経由で北朝鮮に流出か

日本政府が今回の措置に踏み切った理由ついては二つの見方が出ている。ひとつは、徴用工問題などで対立する韓国への対抗措置、報復という見方。もうひとつは、あくまでも韓国の輸出管理の甘さを正すためという見方だ。

前者は、マスコミや韓国政府の受け止め方で、後者は、日本政府の公式見解であり、輸出管理の専門家もそう見ている。

まず、専門家の論を紹介しよう。国連で北朝鮮制裁専門家パネル委員を務めていた古川勝久氏と経産省で安全保障貿易管理の仕事をしていた森本正崇・慶応大学非常勤講師という、いわば輸出管理のプロが共著でメルマガ「週刊正論」にこう書いている。

「韓国国内には、北朝鮮と長期間取引していた企業が少なからずある。韓国企業の輸出管理が甘いということは、すなわち日本から輸出された軍事転用可能な物資・技術が、韓国経由で中国や北朝鮮等に流出されかねないリスクがある、ということだ」

そして、
「以前ならば、日本は韓国との輸出管理協議を通じて、このような問題について是正を求めていたが、文在寅政権とは対話ができておらず、懸念を払拭できない状態が続いていた。このため、韓国への優遇措置の解除に至ったというのが、今回の措置の主な背景である」と説明する。全体として、措置は当然のことで、輸出管理上の事務的な手続きにすぎないというトーンだ。

そのトーンが特に表れているのは次の個所だ。

「今回の措置に踏み切った理由は、韓国の輸出管理への取り組みに対する懸念、の一点に尽きる。たとえ、いつか徴用工問題の解決に向けて進展が出てきても、それを理由に今回の措置をもとに戻すわけにはゆかない事情がある」。

日本政府の本音は「対抗」か

日本政府の公式見解も同様の趣旨を繰り返している。たとえば、2日の記者会見で世耕経産相は、こう言っている(経産省HP)。

「今回の見直しは、安全保障を目的に輸出管理を適切に実施するという観点から、運用を見直すというものであります。一部報道、あるいは韓国側の反応にあるような、いわゆる対抗措置といったものでは全くありません」

しかし、すぐその後で、「旧朝鮮半島出身労働者問題については、残念ながら、G20までに満足する解決策が全く示されなかった、関係省庁でいろいろと相談をした結果、韓国との間では、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況になっている」と徴用工問題をにおわしている。

世耕経産相の論理は、「輸出管理制度は国際的な信頼関係を土台にしたものだから、信頼関係のない国に対しては、厳しい態度で臨みますよ」という組み立てで、徴用工問題に直結させていないし。「対抗」であることを否定している。

WTO対策もあり、「対抗」という言葉を使わないのかもしれないが、奥歯にものがはさまったような言い方で、本音は対抗措置にあると受け止められても仕方ない。良く解釈すれば、韓国を協議の席に着かせるために繰り出した一手とも考えられる。

さらに、日本からの輸出品が禁輸対象国に流れた案件を把握しているならばもっとそのことを強調すればいいのに、世耕経産相は、「韓国に関連する輸出管理をめぐって不適切な事案が発生したこともあり」とあいまいにしか述べていない。

安倍首相も7日にテレビで、輸出規制について「韓国が言っていることは信頼できないから措置を打った」「韓国は国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理において、守れないと思うのは当然ではないか」と徴用工問題が関連していることを示唆する発言をしている(読売新聞)。

流出に目をつぶる韓国政府

韓国の輸出管理に甘さがあるのは事実らしい。4日に自民党の萩生田光一幹事長代行が「(化学物質の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだから、こうしたことに対して措置をとるのは当然だと思う」と述べるなど、政府サイドは小出しに流出の疑いを伝えてきた(中央日報)。

韓国政府は、流出疑惑を否定し反論してきたが、FNNが10日に流したニュースは、実は、韓国政府自身が戦略物資の密輸出の存在を認識していたことを伝えた。

FNNが入手した韓国政府作成のリスト

 2015年から2019年3月にかけ、戦略物資が韓国から流出した密輸出案件は、156件にのぼるという。韓国政府が作成したとされるリストの数字だ。

 流出疑惑については、文政権に批判的な『朝鮮日報』が5月17日に、「大量破壊兵器に転用可能な戦略物資、韓国からの違法輸出が急増」との記事を報じていた。記事によると、産業通商資源部(省)の資料で、政府の承認がない違法輸出は156件あった、という。件数が同じなのでFNNもその資料だろう。記事は、「韓国の戦略物資が、第三国を経由して北朝鮮やイランに持ち込まれた可能性もある」と指摘していた。

しかし、韓国側は、流出の事実には目をつぶって、日本政府による対抗の面に焦点を当てている。

文在寅大統領は、10日に開いた財閥トップとの会談で、日本が政治的な目的で韓国経済に打撃を与える措置を取っているとの見解を示したといい、どうやら密輸出の存在を認める方向に行きそうもない。さらに、日韓の対立は長期化する恐れがあるとも警告したという(ブルームバーグ)。

今後の展開を推測

今後の展開を推測してみると、日韓政府とも当分、解決に向けた動きを取るようには見えない。膠着状態だろう。文大統領が密輸出の存在を認めるのはそれほど難しくないように思えるので、期待はしてみたい。そうすれば、今回の輸出規制が、「単なる輸出管理」の問題なのか、「本音は対抗」なのか見極めもつく。

しかし、両政府の対立が続き、半導体生産に支障をきたすタイムリミットを迎えれば、韓国の半導体、スマホメーカーはもちろんのこと、韓国製半導体を使用する米国のIT機器メーカーも困るだろう。内外の経済界からのプレッシャーがかかり、政府も動かざるを得なくなる。これは解決に向かう流れ。

あるいは、極端な反韓、反日主義者が不穏な事件を起こし、社会全体もお互いを非難する感情が一気に高まる展開もないとは言えない。実際、韓国京畿道で、日本人を装った韓国人男性4人が「平和の少女像(慰安婦像)」に唾を吐き、目撃者は、日本人らしいと通報したという事件が6日に起きた(中央日報)。幸い、警察が容疑者を捕え、全員韓国人とわかったからよかったが、日本人犯人説のウワサが広がっていたら反日感情が高まっていただろう。

果たして、安倍官邸が、今後の展開をどこまで読み切り、どういう形で決着させようとして今回の措置に踏み切ったのか。「強い立場を見せつけてやろう」とか「参院選に有利に働くから」とかの理由ではなかろうが。

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