対外強硬派の米大統領補佐官、ボルトン氏の解任を北朝鮮は喜んでいるだろう。解任でトランプ政権の対外姿勢は変わるだろうか。
解任を伝えたのは10日のトランプ大統領のツイッター。「彼の提案の多くに私は強く反対してきた。他の政権メンバーも同意しなかった」と理由を説明している。ただ、ボルトン氏は、これもツイッターで「私は昨夜、辞職を申し出た。トランプ氏は『それについてあす話し合おう』と言った」と、9日夜に自ら辞意を伝えたと解任を否定している(日経新聞)。
トランプ大統領らしく、解任発表は不意を突くもので、ボルトン氏は10日午後、ポンペオ国務長官、ムニューシン財務長官と記者会見に臨む予定で、ツイッター発表の約1時間前にホワイトハウスのプレス担当者は、この合同記者会見に関する発表文を送っていた。
辞任は予想されていた
しかし、ホワイトハウスでは、解任を聞いてショックを受ける者はほとんどいなかったという。ボルトン氏は、政権内でも他のスタッフに対して自説を通す強硬派で、国務長官やメラニア夫人にも攻撃的だったらしい(ウォールストリート・ジャーナル)。
そして、トランプ大統領とは、北朝鮮、イラン、ロシアに対する政策で合わなかった。北朝鮮に対する大統領個人の外交にはずっと反対していた。
今回の解任の直接のきっかけは、アフガニスタンからの米軍撤退を目指すトランプ大統領が反政府武装勢力、タリバンと会談することをめぐっての意見対立のようだ。
ボルトン氏はブッシュ(子)政権時に、チェイニー副大統領らとともに対外強硬派のネオコン(新保守主義派)で、イラク戦争の旗振り役のひとり。そんな、タカ派が抜けることで、トランプ政権の外交・安全保障政策は目に見えて変わるだろうか。
希少な歯止め役だった
ウォールストリート・ジャーナルの社説は、米国が外交交渉で譲歩しすぎるのではないかと危機感を抱いている。トランプ大統領は、気まぐれで取引重視に走る。ボルトン氏は、それに歯止めをかける政権内の希少な存在だったとして記事は評価する。
記事によると、ボルトン氏は、左派および孤立主義の右派からは「トランプ氏が世界平和を追求するのを妨げた強硬派の人間」と見なされる。しかし、その見方は単純化しすぎで、問題なのは「トランプ氏が全ての安全保障問題を交渉で解決できると考えていること、そして他国の全ての首脳が自分のように取引をしたがっていると考えていることにある」という。
この発想のままに、トランプ大統領が外交交渉に臨めば、そして大統領選が近づき、外交政策の成果を求める政治的圧力が強まってくれば、北朝鮮、イラン、ロシアから何とか同意を得ようとして譲歩しすぎてしまう。その歯止め役が失われることに危惧を抱いているのだ。
共和党主流派の理念の敗北
ウォールストリート・ジャーナルの別の記事は、ボルトン氏の退場を共和党主流派の理念の大きな転換点と見る。主流派理念の「敗北」と意訳すると理解しやすいかもしれない。その理念とは「アメリカは世界の警察官であるべき」という世界の安全保障にかかわってくる問題だ。
トランプ大統領は、その理念を否定して登場した。「以前なら明らかに党内の少数派だった意見を堂々と訴えた。米国はもはや世界の警察官ではないと主張したのだ」。
政権を握ってからトランプ大統領は、イラクからの米軍撤退を志向し、ロシアとの関係改善を望み、北朝鮮の金正恩氏と単独会談した。今夏は、イラン空爆を寸前で思いとどまった。中国との貿易戦争では厳しく対立しているが、安全保障上では、深追いしない。
「介入主義には半信半疑で、異国での戦争には極めて懐疑的」なトランプ大統領の方がいまや共和党内では優勢になっている。それが、長期的なものなのか、トランプ政権限りなのかは「まだ分からない」と記事は伝えている。
二本の記事とも、ボルトン退場で結果的には、米国の外交がより融和的になるということか。米国に届く長距離弾道ミサイル以外の核ならば北朝鮮に認めてしまうような融和は日本にとって難物だ。韓国の文政権も北朝鮮に融和、中国は北朝鮮の核保有を認めないはずだが、日本がトランプ大統領にボルトンの役割を果たすしかないだろう。
安倍首相や11日に発足した第4次再改造内閣で外相に就任した茂木敏充氏、国家安全保障局長に就任する北村滋氏は、ボルトン退場の背景などを十分に把握しているだろう。とは言え、彼らにボルトン役を果たすのを求めるのは過剰な期待かも知れない。何しろ、相手はトランプだ。総力を挙げて知恵を絞って欲しい、と月並みな言葉しか出てこない。