米イラン、「戦争へ一直線」と言うわけではない

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新年早々、米国とイランの間で緊張が一気に高まった。1月3日、イラク国内で米軍がイラン革命防衛隊の将軍を殺害するという暗殺めいた手口が刺激的で、しかもその将軍は最高指導者、ハメネイ師の右腕とも言える大物司令官だったから、それなりの報復があるのは必至だろう。

その後も、「米、中東3000人超増派」、「中露、米国を非難」、「イラク、米国への反発強まる」と対立拡大を示す動きが伝えられ、大規模な戦争に発展しそうな雰囲気だ。

しかし、「イラン、中露VS米国」という対立構図や事態の深刻化を伝える記事ばかりが流れているわけではない。複眼的に状況を見た方がいいから、そうした記事を紹介しよう。

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イラクは反米一色ではない

まず、「反米感情が高まる」と伝えられるイラク国内の様子を見てみよう。

殺害されたカセム・ソレイマニ氏(62)は、革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官で、日本ではその名を知っている人は少なかっただろうが、イラン国内では最も有名な人物の一人で、ロウハニ大統領を上回る人気だった(ウォールストリート・ジャーナル)。

その大物司令官がなぜイラク国内にいたかというと、ソレイマニ氏は、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどでシーア派民兵組織を育成してきたからだ。

これらイラン周辺地域でソレイマニ氏が育てた民兵たちは、テロ活動を行い、スンニー派住民を迫害するなど暴虐を繰り返してきたと、中東に詳しい黒井文太郎氏は指弾する。「彼がいなければ、イランがここまで近隣国に露骨に介入して多くの人々を殺害することもなかったかもしれない。ソレイマニ司令官の罪はきわめて重い」(JB Press)。

今回、トランプ大統領に殺害作戦を決断させたのは、昨年12月31日に、在バグダッド米大使館へデモ隊が押し寄せ、大使館の壁を放火したり、館内への侵入を試みたりしたからだという。このデモはイラクのシーア派民兵組織「PMF」が動員したものだ(同上)。

米国のトラウマになっている在イラン米大使館占拠事件を連想させるデモ隊襲撃に遭い、「今回の攻撃は、米国側からすれば、イラクで合法的に活動している米軍が、自らに対するテロ作戦を指揮していたイランのテロ工作員を、自衛のためにピンポイント攻撃で殺害したことになる。米国側は「差し迫った脅威があった」「米国の外交官や軍人に脅威がある以上、何もしないわけにはいかなかった」としている」(同上)

イランは、近年イラクでの影響力を拡大し、ほとんど「支配」する状況にあるという。そんな政府に反発し、2019年10月、バグダッドを中心に大規模な反政府デモが発生した。「その反政府デモは従来の宗派対立ではなく、腐敗したイラク政府への批判のデモだった」。現在のイラク政府はイランの強い影響下にあるので、「反政府デモは“反イラン”デモの性格も帯びた。シーア派の聖地・ナジャフのイラン総領事館も放火された」(同上)。

イラク政府治安部隊とシーア派民兵が実弾で弾圧し、400人以上の死者を出したというから、文明国ではありえない所業だ。イラクでは反米もさることながら反イラン感情も強いようだ。

「中露、イラン連合」は見かけだけ

次に中露のイラン支援の可能性である。中国、ロシア、イランの3カ国は昨年末、オマーン湾で初の海軍合同演習を実施した。

司令官殺害後も、中国の王毅外相、ロシアのラブロフ外相は、「武力の乱用」などと米国を非難している。反米で3カ国がまとまりそうに見えるが、利害が一致しているわけではない。以下は、ウォールストリート・ジャーナルの記事に拠る。

「カーネギー国際平和財団モスクワセンターの「アジア太平洋地域におけるロシア」プログラムを率いるアレクサンドル・ガブエフ氏は、「ロシアではだれもイランのことを全く気にかけない。ロシア社会はイランをパートナーとみなしておらず、ましてや、死んでもいいと思えるほどの友人ともみていない」と指摘した」。

「中国国家安全部傘下のシンクタンク、中国現代国際関係研究院(CICIR)にある中東問題研究所(Institute of Middle East Studies)でディレクターを務める牛新春(Niu Xinchun)氏は、2017年の政策文書で、「中国の基本戦略において中東の意義は低下しつつある」と指摘した。同氏は「実際のところ、2011年以降、中東諸国はほぼ同時期に内戦状態に陥ったが、中国経済に具体的な影響をもたらすことはなかった」と述べている」。

「南京大学国際問題研究所(Institute of International Studies)のディレクター、朱峰(Zhu Feng)氏は、中国が昨年12月、イランとの海上軍事演習に参加したことについて、「実体のあるものというより、象徴的なものだった」と指摘した。同氏は「私は中東地域での緊張の高まりに関与することに中国が関心を持っているとは思わない」と語った」。

そもそも、ロシアも中国も、イランにとっては中東地域の大敵であるサウジアラビアおよびイスラエルと友好な関係を維持しており、外交上、イランだけに肩入れするわけにはいかないようだ。

イランも戦争は望まないが…

国民に絶大な人気を誇る将軍が殺害されたイラン国内の怒りの行方だ。どう爆発するかは不透明だが、イラン政府は、抑えようとしているらしい。

ウォールストリート・ジャーナルは、「米イラン、戦争は不可避ではない」と題する記事を出している。

記事は、イランが大局的に目指しているものは3つあると推測する。

第1に、イランは痛みに耐えられるだけでなく、痛みを負わせることもできることを示そうとしている。叩かれるばかりではないんだぞ、ということだろう。

第2に、イランは原油供給と中東の安定を妨害して、世界を驚かせ、緊張が一気に高まる可能性があると思わせようとしている。経済支援を国際社会から引き出すのが狙いで、そのために、米国との紛争を国際問題化しようとしている。

第3に、イラクから米軍を撤退させることだ。米国にとって不快な事態をイラク国内に作り出せばトランプ大統領が撤退を決断する。
米軍がいなくなれば、イランはイラクで政治的、経済的な影響力を拡大できる。最近のイランによる挑発行為がイラクで起きているのはそのためだと見る。

こうした狙いがあっても、「イランは非難されそうな直接的な軍事攻撃を注意深く避け、より曖昧な手法を選んできた」という。

米国と全面的な紛争になれば自国の存続が危険にさらされることを承知しているからだ。「問題は、その自制が続くかどうか、そしてハメネイ師が親イラン勢力やテロネットワークを完全に抑えることができるかどうかだ」と見る。

イランも戦争は望んでいない。しかし、何らかの報復をしなければ、国内は収まらない。

予想される報復の場

報復の場となるのは、「イラク国内とペルシャ湾。緊張はサウジアラビアやイスラエルで米国を支援する勢力にも波及し、サイバー空間にも広がる恐れがある。イランが育てたテロネットワークを活性化させる可能性もある。しかし最も懸念すべきは意図せざる事態が起きることかもしれない」と記事は予想する。

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