イランはもともと米国と戦争するつもりはなかった

昨年末以来の今回の米イラン紛争をめぐる直近の報道は、イラン政府の本音を浮き彫りにしたと思えてくる。

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「報復攻撃はこれで終わり」と伝える

イランによるイラク米軍拠点に対するミサイル報復攻撃があったのは8日7時半ごろだった。大規模な軍事衝突への心配が一気に高まり、株式市場も日経平均株価が一時、600円を超えて下落した。

ところが、日が開けて間もない9日0時11分に共同通信が意外なニュースを流した。イラン政府が(ミサイル攻撃したけれど)、「米国がイランに反撃しなければ、イランは攻撃を継続しない」とスイスを通じて米国政府に伝えていたというのだ。

情報の出所は「イラン政府筋」。欧米のメディアも同様のニュースを流しているのかわからないが、共同がキャッチした重要な情報だ。イラン政府が「報復攻撃はこれ1回で終わりだ。戦火を拡大するつもりはない」と宣言しているわけで、武力衝突を避けたいトランプ大統領にとっては、渡りに舟だったろう。

トランプ大統領が、「すべて順調!(All is well!)」とツイートしたのも、イラン政府からのメッセージがあったからだろう。

死傷者が出なかった理由--事前通知されていた

イランはまた、イラクに対して事前に攻撃を知らせていた。イラクのアブドゥルマフディー首相が出した声明の中で、明らかにしている。
「イランがアメリカ基地を攻撃する知らせは事前に受けていた。この攻撃はアメリカ兵がいる一帯だけが対象になると告知された。しかし、攻撃が行われる拠点に関しては説明がなかった」

アブドゥルマフディー首相は、攻撃の事前情報を米国に伝えたという(TRT=トルコ・ラジオ・テレビ協会)。

事前通知したことは、イランのザリフ外相も公に表明している。「攻撃の前にイラク政府に通知した。われわれはイラクの主権と領土の一体性を非常に重視している」(TRT)。



イラク領土にミサイルを発射するので、イラクの主権を尊重しての事前通知、という理屈だが、それがトランプ政権に伝わることは承知の上だろう。

イランの通知がミサイル発射よりも時間的にどれほど前に伝えられたのかはわからないが、米国政府は、ミサイル着弾の約3時間前に攻撃を知ったという(毎日新聞)。

当初は標的がわからなかったというが、3時間の余裕があれば、標的と思しき場所から遠ざかることは十分に可能で、死傷者が出なかったのはうなずける。

ミサイルも標的を外した?

事前に攻撃を知らせるばかりではなく、攻撃そのものも人的被害を出さないよう意図された攻撃との見方も消えない。

明海大の小谷哲男准教授は、「攻撃後にトランプ政権の関係者に話を聞いたが、イランはわざと標的を外し、米軍に大きな被害を出さないようにしたと見ているようだった」と語っている(毎日新聞)。

こうした報道を読んでいくと、「米国と戦争するつもりはない」というのがイランの本音だったと思えてくる。少なくとも今回の局面においては、と限定しておいた方がいいかもしれないが。

ロイターのコラムは、ソレイマニ暗殺後の結末を、こう書いている。皮肉と哀れみを感じる一節だ。
「イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官は自分の暗殺に対して、イラクの米軍駐留基地への20発程度のミサイル発射が「見合った対応」だとイラン指導部の自分の僚友らが見なしたと知ったら、さぞがっかりするだろう」。

イラン指導部にとって、ソレイマニ司令官の存在は重たかったはずだが、このまま終われば、重すぎたのかもしれない、と思えてくる。

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