快挙に喝采したいが、大丈夫なのか 東芝の量子暗号通信のニュース

東芝が1月21日に、今年度から米国で、「量子暗号通信」のビジネスを展開すると発表した。「もう実用化の段階に来てたのか」と少し驚いた。

素人の驚きなど吹けば飛ぶような感想にすぎないが、昨年12月5日の朝日新聞の記事(後述)に、阪大の教授が「実用化まで先は長い」と語っているから、専門家の中にも驚いた人が少なからずいたのではないか。
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おいしいビジネスに東芝の期待も大きい

何しろ、量子暗号は、「永遠の安全を保証してくれる完全無欠の暗号システム」(『暗号解読』下巻255㌻、新潮文庫)。既存の暗号システムを打ち破る超々高速の量子コンピュータでも、量子暗号には太刀打ちできない。原理的に打ち破ることのできない、暗号界における究極の守護神だ。

→量子コンピュータ、量子暗号については、次の過去ブログに書いてますので、ぜひご参考に!

「名著『暗号解読』① デジタル社会崩壊を防いでいるのは中学で習った数学」

「名著『暗号解読』② 量子コンピュータも解読できない暗号の仕組みとは」

先日も、三菱電機が中国系ハッカー集団から大規模なサイバー攻撃を受けていたことが明るみに出たばかり。サイバー攻撃は日常茶飯事化しており、政府、企業にとって、量子暗号のような絶対に打ち破ることのできないセキュリティシステムはのどから手が出るほど欲しいだろう。

量子暗号通信市場を、東芝は2035年には世界で200億ドル(約2兆2000億円)と見込んでいるという(日経XTECH)。将来はさらに巨大化しても不思議ではない市場だろう。

利益率もきわめて高い。「利益率が3割、場合によっては6割に高まるビジネス」と、会長兼CEO(最高経営責任者)から社長兼CEOに就任する車谷暢昭氏は語っている。めったにないおいしいビジネスだが、この製品は人の頭脳から生み出されるものだから、コストとなる設備投資は不要のうえ、顧客が待ち望んでいる製品だから、高値でも売れる。車谷氏の期待がふくらむのも無理はない。

東芝は、量子暗号通信に使われる機器を販売するのではなく定額制のサービスとして提供し、売り込み先としては、「機密性の高い情報を扱うアメリカの政府機関や金融機関」を狙っているそうだ(NHK)。

量子暗号通信のハードル

ざっと見渡したところで、先の朝日新聞の記事の戻ろう。「ネット通信の安全守る「量子通信」 実用化の課題とは?」と題する12月5日の記事で、記者は「実用化に向けた技術的なハードルは高く」、そのハードルの一つ「中継器」について手短に説明している。

「ネット回線に使う光ファイバーには、光を増幅して遠くに伝える中継器が一定間隔で用意されている。情報を伝える光は、長い距離を進むうちに弱まるからだ。」

「だが、量子通信では、光の粒に載せた情報を増幅できない。そこで、大岩さんは情報をいったん、電子の粒に載せ替えて通信距離を伸ばすことを研究している。量子通信の通信距離は200キロ程度まで実証されているが、ほかにも多くの課題があり、米欧中を中心に基礎研究が続く。」

大岩さんとは、大阪大産業科学研究所の大岩顕教授。「実用化まで先は長い」と見ている。

量子暗号は通信できる距離がまだ200㌔程度らしい。これで実用化に耐えるのだろうか。東芝のサイトを見たが、今回の件に関するニュースリリースを出していないので、具体的なことはよくわからない。NHK、日経の報道にも詳しいことは書かれていない。


500キロは届くようになった?

ただ、東芝のサイトに過去の量子暗号通信に関するニュースリリースがたくさんあり、その中のひとつに、「量子暗号通信で世界最長500km以上の通信距離が可能となる新たな方式を開発」というのがあった。

リリースは、「これまで光ファイバーを用いた量子暗号通信の距離は200~300kmに限られていました。
これは、距離が長くなると情報を伝達する光子が散乱等により失われてしまうためです。今回、当社は、鍵伝送距離の長距離化と、配信速度を高める手法を考案し、世界で初めて、これまで限界と考えられていた距離を上回る、500㎞以上の量子暗号通信が可能になりました。」と説明している。

2018年5月23日の発表で、その後、成功したのかもしれない。

とは言え、世界中に届くインターネット網に比べ、500㌔という距離感は寂しい。システムを導入する側も、一歩立ち止まるのではないか。世界に先んじて、ビジネス化に手を染めた快挙には喝采したいが、素人ながら、大丈夫なのかな、と思ってしまう。

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