新型コロナ 夏になれば終息するのか 「8.72度以上で感染者減少」説も

 夏になれば、インフルのように新型コロナウイルスの流行も収まるのではないか--誰もが抱くそんな期待は、世界保健機関(WHO)幹部のコメントで否定されてしまったが、期待を裏付けるような研究や見方もあるので紹介しよう。

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WHOは否定したが

 WHOの否定コメントは、緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏によるものだ。3月6日の記者会見で、「気象条件が変わればウイルスの活動がどうなるのか、まだ分かっていない」とし、「インフルエンザのように夏になれば消滅すると考えるのは、間違いだ。現時点ではそのように考える根拠が見つかっていない」と語った。
共同通信=東京新聞)。

8.72度以上になると感染者減少

 しかし、「根拠」とまでは言えないが、状況証拠的なデータも出てきている。香港の英字紙「South China Morning Post」の3月8日の報道(電子版)によると、中国広州市にある中山大学は、気温が8.72度に達すると感染力が弱まるという研究を2月25日に査読前の段階ながら公表したという。元の論文の要旨、本文はこちら

 新型コロナに関する論文はたくさん出ているそうで、専門家がいちいち評価しきれない状況にあると思う。世の中にあまり知られていない論文は山のようにあるだろう。中山大学の研究もその中のひとつと言える。

 South China Morning Postによると、広州の研究チームは、400を超える中国の都市や地域を含め、1月20日から2月4日までに世界中で確認されたすべての新規コロナウイルスの事例に基づいて調査を行った。

 その分析の結果、各地の気温と感染者数を照らし合わせると、感染者数は、摂氏8.72度まで増加し、それ以上の温度では減少していることがわかった。

「温度は、…伝染病の発生と抑制の観点から公衆衛生に重要な役割を果たす可能性がある」とし、武漢で最初に感染が拡大したのは気候のせいかもしれないと研究は述べている。武漢の平均気温は1月が8/0(最高/最低)で、ウイルスの増殖範囲だ。3月平均気温は15/7なので、いま感染者の増加が鈍化しているのは気温上昇のせいかと思いたくなる。

 South China Morning Postは、中山大学の研究に対立するデータも伝えている。ハーバード大学の研究者グループによる研究で、感染は、中国南部の広州チワン自治区やシンガポールのような湿気のある地域でも拡大しているという。

南アの感染者のほとんどは欧州帰り

 でも、世界の感染状況を眺めると、気温が高い地域は例外もあるが感染がひどく拡大していないのに嫌でも気づく。下表は、アフリカの感染者数で流行地域に比べはるかに少ない(3月15日WHOデータ)。南アフリカではこの表よりさらに増え、61人を数えているが、そのほとんどがイタリアやドイツなどヨーロッパ諸国から帰国した人たちだ(NHK)。

 日本でも、気温が低い北海道は感染者が多く、九州は少ない。

集団感染は「10度ライン」の外で起きている

 国や東京都などの感染症対策に携わる濱田篤郎・東京医大教授も「気温の高い国では大規模な集団感染がおきていない」点に注目する。集団感染国とそうでない国々との境界が、1月の平均気温=摂氏10度ラインにありそうなのだ(毎日新聞、3月11日)。

 この10度ラインは、下の地図に示すとおりだが、ラインにはさまれた熱帯、亜熱帯の国々は、ネッタイシマカというデング熱の媒介蚊が生息するデング熱流行地域だ。厚生労働省検疫所のホームページで地図を見ることができる。

 新型コロナの感染者数が100人以上の国はほとんどがこの10度ラインの北側にある温帯に位置している(3月9日時点)。シンガポールは、100人を超えているが、大規模な集団感染ではない。

イタリアは北部に集中

「感染者が急増しているイランは、等温線が国の中央部を通り、イタリアでは国の南部を通る。また、イタリアでは南に向かって流行が拡大するのではなく、北のフランスやドイツに向かって拡大している」と濱田教授は書いている。

 なるほど。イタリアでは、感染者が2万1157人に達したが(3月14日)、感染者が多いのは北部のロンバルディア州(1万1685人)、エミリアロマーニャ州(2644人)、べネト州(1937人)と北部に集中している(共同通信=東京新聞)。

気温説が正しければ4月に期待

 8.72度、10度ラインの推測が当たっているとすれば、今後、感染拡大は鈍化してくるのではないか。そこで、世界各地の3~5月の平均気温を調べてみた。

   3~5月の平均気温(最高/最低)
        3月   4月   5月
札幌      4/-4  12/3   18/8
東京      14/5 19/10 23/15
那覇      22/16 24/19 27/22
ミラノ     14/7 18/10 23/14
(イタリア北部・ロンバルディア州にある)
ローマ     17/6 19/9 24/13
パリ      13/5 17/8 20/11
ニューヨーク  11/2 18/7 22/12
ロサンゼルス  21/11 23/13 24/15

 この数字を見ると、3月はまだ流行気温の地域が多いが、4月になれば、感染者数が減ってきそうだ。那覇は、3月から気温がかなり高い。沖縄に住む感染症専門医、高山義浩氏のフェイスブックによると、沖縄の感染者はほぼ止まっているようだ。
「沖縄県保健医療部が公表している日報によると、沖縄県では、3月12日までに新型コロナウイルスのPCR検査を196人に実施してきましたが、陽性だった(感染を確認した)のは3人のみでした。実に98.5%が陰性だったんですね。」

 ロサンゼルスも那覇の気温に似ているので、感染者数を調べてみた。ロサンゼルス郡の感染者数は3月14日時点で54人(群全体の人口は990万人)。いまは増加中で、感染経路が不明な患者もいるので、もっと増えそうだ(Los Angeles Times)。必ずしも少ないというわけではないようだ。

 ミラノとそれよりも南部にあるローマを並べたのは、ローマのあるラツィオ州の感染者が357人と北部州に比べ圧倒的に少ないため。気温を調べたが大して差はなかった。

 感染拡大を左右するのは、もちろん気温だけではない。集団感染の小グループ(クラスター)がつながってしまったり、感染対策のやり方や医療体制、生活スタイルにより違ってくるだろう。

パンデミック6月終息説も

「パンデミック6月終息の可能性」と語る中国の疫学者、鐘南山氏は、新型コロナは、気候が暖かくなれば活性が低下する種類のウイルスとした上で、「6月終息という予想は、全ての国が強力な措置を講じたシナリオに基づく」と強調している(ロイター、3月12日)。気温だけに頼るのではなく、相応の政府の措置が加わることが終息の条件というわけだ。中国は、上からの統制が好きだから、「中国の学者らしいなあ」とは思うが、それはさておくとして、鐘南山氏は、中国の専門家チームを率いる人なので、「6月終息」の見方にはそれなりの重みがある。

判断材料が少ないのも事実

 もちろん、懐疑的な専門家も多い。そもそも、専門家が気温と感染拡大の因果性に慎重な見方をするのは、新型コロナに未知の部分が多いからだ。ナショナル・ジオグラフィックス誌(3月15日)は、新型コロナウイルスが季節性を持っているかどうかを予測するには、判断材料が少なすぎると指摘し、専門家たちの見方を伝えている。

「米ハーバード大学公衆衛生大学院の疫学者マーク・リプシッチ氏は、暖かくなってもウイルスの拡大が大幅に抑えられるとは思えないと話す」。
「英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のデビッド・ヘイマン氏も同様に、予測は難しいと語る。「証拠に基づくことなく予測をすれば、もしそれが間違っていた場合、真実と取られて誤った安心感を与えてしまう恐れがあります」と、ヘイマン氏はメールで警告した。「今やるべきことは、ウイルスを封じ込めて、可能であれば消滅までもっていくことです」」

 あと2、3か月ほど経てば、答えは出る。中山大学の研究、濱田医師の推測が当たっているといいが。

 本サイトのコロナウイルス関連記事は、こちらに10本あります(3月16日)。

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