「アビガン」はなぜ、新型コロナウイルスに強いのか 世界中から引っ張りだこ

  

 感染者114万人超、犠牲者6万人超(4月4日)に達した新型コロナウイルス感染症(共同通信)。流行終息の兆しが全く見えず、文字通り世界中が治療薬の登場を待ち焦がれている中、日本発の既存薬「アビガン(一般名ファビピラビル)」が救世主として期待されている。

世界中から引っ張りだこ

「約30カ国から外交ルートでアビガンの提供要請があり、日本政府から所要の量を無償で供与すべく調整を行っている」と菅官房長官は4月3日の記者会見で明らかにしている(毎日新聞)。

 ドイツ政府は、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、アビガンの購入手続きに入ったと報じられた。購入量は、数百万錠単位になるというから(共同通信)、すでに有効性は確認済みで、医療現場での投与を近いうちに始めるのだろう。

 それほど世界から期待されているアビガンは、新型コロナウイルスをいわば、だまして撃退する。そのメカニズムを紹介し効き目を示すデータ国内での使用メド(遅すぎる)をまとめてみた。

アビガンは、なぜ新型コロナに強いのか

 アビガンは富士フイルム傘下の富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザ薬だ。と言っても、新型インフル流行時に、タミフルなど他の抗インフル薬の効果が十分でないときに国の判断で使用が認められる。ベンチで出番を待つ代打専門選手のような存在だ。

 このため、備蓄専用として2014年に製造・販売が承認されたが、その備蓄量はインフルエンザ用で200万人分とハンパな量ではない。しかし、新型コロナでは、患者への必要な投与量が増えるので、3倍に増やす(新型コロナ用200万人分)ことを7日に決める緊急経済対策に盛り込むという(日経新聞)。

 アビガンがインフルエンザウイルスを撃退するメカニズムは、開発者本人である白木公康・千里金蘭大学副学長が日本医事新報社に寄稿した短い報告に書かれている。

 その前に、撃退メカニズムに関係してくるので、少しだけウイルスに関する基礎知識を整理しておく。

【ウイルスが宿主細胞に侵入する目的】

近畿大学病院・今さら聞けない「ウイルスと細菌と真菌の違い」16ページ

 ウイルスは、非常に簡単な作りで、遺伝子を運ぶ核酸(DNA、RNA)の周りをタンパク質(カプシド)が覆っているだけの構造だ(左図)。細胞ではないので自力では増殖できず、人などの宿主の細胞に侵入して増殖を図る。細菌と分かつところだ。細菌は、細胞なので、自らが生存に必要なエネルギーを産生し、物質代謝し、遺伝子を複製できる。細胞が分裂することで増殖していく。

 単純な作りのウイルスにはそんな芸当はできない。ウイルスの増殖は、下図のように行われる(これは後段の説明に関係してきます)。

 ウイルスは、宿主として狙った細胞内に侵入すると、自分の遺伝子を放出・複製し、かつウイルスタンパクを合成し、この遺伝子とタンパクを組み立てて新たなウイルスを生み出す。大量に増殖されたウイルスは、細胞外に放出され、それぞれがまた別の細胞に侵入していく。これが繰り返されて、ウイルスは体内にはびこっていくわけだ。

(出所)感染症.com ウイルスの増殖について

 ウイルスが細胞内に侵入する目的は、この新たなウイルスを生み出す際に、宿主細胞の機能をちゃっかり利用するからだ。だから、細胞に侵入しないと、ウイルスは増殖できない。

【ウイルスが勘違いして自滅】

 アビガン本題に話を戻すと、アビガンの薬効対象であるインフルエンザウイルスは、宿主の細胞内に侵入し、増殖する際、グアノシンやアデノシンという物質が不可欠だそうだ。

 だから、そのグアノシン、アデノシンをウイルスが取り込めなくなれば、ウイルスはお手上げ。増殖できなくなる。アビガンはその弱点につけ込む。

 アビガンは、リボースという糖を加えると生体内に存在するAICARという物質の分子構造によく似ている。AICARは、グアノシンやアデノシンの元となる物質だ。

 構造がよく似ているため、ウイルスは、勘違いするらしい。アビガンをグアノシンやアデノシンと間違えて取り込んでしまうのだ。その結果、ウイルスは増殖をストップする。書いた当人が言うのも何だが、実は「撃退」のイメージには遠い。

 この勘違いはインフルエンザ以外のほとんどのRNAウイルスにも起きると、白木氏の論文に書かれている(もっと学術的な表現だが)。

 RNAウイルスとは、ウイルスのグループで、もうひとつのグループにDNAウイルスがある。ウイルスを核酸の種類で大別した場合、この二つしかない。高等生物は、DNA、RNAの二つの核酸を持っているが、ウイルスは作りが単純なので、どちらかしか持っていない。

 コロナウイルスは、RNAウイルスのグループに属する。同じグループだからと言って、同じ薬が何にでも効くというわけではないだろうが、アビガンは効果が期待されている。

 アビガンは、国外でエボラ出血熱に投与されたこともあるが、エボラもRNAウイルスだからだ。

アビガンの効果を示す臨床研究

 今回、アビガンが注目されるようになったのは、中国で効果が認められたからだ。少なくとも二つの臨床研究が根拠になっている。3月17日に中国科学技術省の張新民・生物センター主任が記者会見で、そのことを明らかにした(NHK)。

 二つの臨床研究のうちのひとつ(査読前)は、湖北省武漢の医療機関が患者236人を対象に行ったもので、アビガンを投与した患者は、平均2.5日で熱が下がり、平均4.57日でせきの症状が緩和した。投与しなかった場合は、それぞれ4.2日、5.98日で、効き目が確認された。

 もうひとつは、広東省深センの医療機関が患者80人を対象にした臨床研究。ウイルス検査の結果が陽性から陰性になる日数の中央値が、アビガンを投与した患者35人は4日だったのに対し、「カレトラ」を投与した患者45人は11日だった。カレトラは、抗HIV薬で、治療薬候補のひとつである。

 また、エックス線の画像で肺炎の症状に改善が認められた患者の割合は、アビガンの場合91%と、カレトラの62%より高かった。

 深センの患者の方が武漢よりも発症日数が短いため、効き目が顕著だったらしい。これらの研究から、中国は、アビガンを患者が「重症化するのを防ぐ治療薬の1つとして政府の診療指針に正式に採用する方針だった。

【謎の論文取り下げ】

 ところが、つい最近になって、ガッカリさせるニュースが入ってきた。深センの論文が取り下げられたというのだ(日経新聞4月3日)。理由は不明のようだが、日経は「現段階では効果が明確に否定されたものではないとみて(日本)国内の研究は継続する予定だ」と伝えている。

【国内での投与・回復症例】

 取り下げの理由が気になるものの、日本国内でも、少数ながらアビガンの使用報告が出始めた(日本感染症学会)。適応外使用なので、本人、家族の了解を得ての投与になる。

 杏林大学病院では、64歳の男性に投与した。入院時は体温38.1度、全身状態良好だったが、高血圧、糖尿病を患っており、入院当初から「重症化が心配された。案の定、入院直後より食事摂取量が低下し、全身状態も不良となった。翌日には酸素投与が必要となり、画像上も肺炎像の悪化を認めた。

 アビガンは、新型コロナには適応外使用になるので、患者の同意と院内規定の手続きを踏んで、投与を始めた。低酸素血症出現と同時に速やかに投与したところ、開始後より解熱傾向を認め、酸素化、食事摂取量も改善したという。

 ほかにも、船橋中央病院では、介護施設でリハビリ中に感染した80歳代後半の女性に投与した。この方は、2年3カ月前に横行結腸癌で右結腸切除、13カ月前に誤嚥性肺炎、11カ月前に胆石で胆嚢出術を受け、ほかにも高血圧、高脂血症、骨粗鬆症だったという。ただし、喫煙歴、飲酒歴はなかった。

 入院翌日からアビガンを服用したところ、3日目の朝から、労作時呼吸困難、食欲低下が消え、その後も、安静時昼間の酸素吸入が不要、解熱、胸部の陰影も徐々に消えていき、18日目に退院できた。

 旭労災病院では、「重症の新型コロナ患者の看護にあたる40歳代の女性看護師が、37.6度の発熱、せき、呼吸困難感となり、肺炎とわかった。入院当日から、アビガンとシクレソニドを投与して、症状が改善、3日目には体温は36.7度の平熱に戻った。シクレソニドは、ぜんそく治療薬で、これも治療薬の候補だ。

【効き目があるのは感染の早中期段階?】

 ここに出てくる患者は、重い肺炎に悪化する前だが、毎日新聞3月16日付によると、アビガンはその段階で70~80人に投与しているが、「ウイルスが増殖してしまった人にはあまり効かない」(厚生労働省関係者)という。先の中国の会見でも、「重症化するのを防ぐ治療薬の1つ」という位置づけだ。

 ドイツは、重症者に投与する方針らしく(前出共同通信)、重症化しても効き目があるのなら嬉しいことだが、もし早めの段階から効果があるなら、軽中等症の患者の発見が欠かせない。PCR検査か抗体検査をもっと増やす必要があるだろう。
  抗体検査については、こちらに関連記事あります。

「新型コロナ 経済活動を蘇らせる「抗体検査」 欧米は着々準備」

「新型コロナの「抗体検査」、欧米とのあまりの温度差が気になってきた」

認可は夏ごろ スピードが遅すぎる

 このようにアビガンの効き目については、中国での論文取り下げでモヤモヤしたところはあるが、専門家の間でもほぼ認められているようにみえる。

 安倍首相は、3月28日の記者会見で、「新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認するにあたって必要となるプロセスを開始する」(日経新聞)と語っている。では、いつからどこの医療現場でも自由に使えるようになるのか。

 富士フイルム富山化学が臨床試験中だが、6月末までかかるという。データ解析後、承認申請すると言うから早くても夏まで自由に使えないのではないか(日経バイオテク)。

「6月末」という数字を見て目を疑った。薬の使用承認には慎重を期すのは当然だし、通常、認可まで相当の時間がかかることは知っていた。しかし、どう見ても、いま必要な薬だ。しかも、アビガンは、抗インフル薬承認の段階で安全性は確認されている(妊娠中の女性には投与禁止)わけだし、もっとスピードアップしないと重症患者が増えてしまう。何よりも、「治療薬がある」という思いは、国民の安心感につながる。

 症例が少ないまま、効能がよくわからないままスタートしても、治療効果は上がらないかもしれないが、そのあたり医師たちはどう思っているのだろう。

本サイトのコロナウイルス関連記事は、こちらに14本あります(4月5日)

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