目次
カギ握るスイング・ステートとラストベルト
「軒並みバイデン優勢」のデ・ジャブ
「勝利確率約90%」と予測を誤った原因
過去まとめ記事 トランプ、再選されるのか 「ミスター、ミズ民主党」不在の大統領選
11月3日の米大統領選は、「バイデン勝利、トランプ敗北」の見方が強まっている。各種世論調査は、軒並みバイデン優勢を伝え、10月の米国株上昇は、バイデン勝利を見込んでの動きとの見方まで出ている(ロイター)。しかし、この光景、4年前にもみなが見ている。クリント勝利を疑う人は少なかったが、結果はトランプの逆転勝利だった。バイデン勝利の予測は、本当なのだろうか。
そこで、調べてみて、確認したのは、今回は、激戦州でのトランプとの差が前回に比べ大きいということだった。それを知ると、逆転は難しく、予測は当たるように思えてきた。
カギ握るスイング・ステートとラストベルト
ロイターと調査会社イプソスが10月9~13日に行った調査によると、民主党候補バイデンが全米で、共和党候補トランプに支持率10%の差をつけている(51%VS41%)。
しかし、米大統領選は、各州で1票でも多い候補者がその州の選挙人すべてを獲得する「勝者総取り方式」(メーン州とネブラスカ州は例外)なので、全米の支持率はあまり意味がなく、ひとつひとつの州を見ていく必要がある。実際、前回2016年の選挙では、ヒラリー・クリントンが全米で300万票多く得票したのに、トランプに敗北した。
勝敗を決するのは、支持政党が選挙年によって入れ替わりやすい「スイング・ステート(揺れ動く州)」だ。両党とも、勝利がまずひっくり返らない州をいくつも持っている。民主党ならば、カリフォルニア州、ニューヨーク州などの西部、北東部州(青い州)、共和党ならば、アラバマ、テキサス、ノース、サウスダコタなどの南部、中西部州(赤い州)だ。
こうした崩れそうもない支持基盤を削って残された州は、11州程度ある。前回選挙では、これに加え、いわゆる「ラストベルト(Rust Belt)」地域が勝敗を左右した。開票時に注目すべき州名は後述するとして、基本的な構図は、そんなところだ。
「軒並みバイデン優勢」のデ・ジャブ
そうした激戦州(スイングステート+ラストベルト)の中でも、特に勝敗を左右する州として米メディアが取り上げる6州の情勢を見ていく。その前に、各社の選挙予測と前回選挙でヒラリーが敗北した州をおさらいしておこう。
選挙予測は、軒並みバイデン優勢の結果となっている。日経新聞が以下のような各種の予測をグラフで紹介している。
▽政治専門サイトのリアル・クリア・ポリティクス
バイデン216 トランプ125 激戦州197
▽フィナンシャル・タイムズ
バイデン279 トランプ125 激戦州134
▽CNN
バイデン290 トランプ163 激戦州85
▽クック・ポリティカル・リポート
バイデン290 トランプ163 激戦州85
※数字は予想獲得選挙人。全体で538人、過半数の270人で勝利。
そろってバイデン優勢の予測が、4年前の予測の外れを思い出させてしまう。ロイターとイプソスの調査が4年前に「ヒラリー・クリントン氏が勝利する確率は約90%となった」と予測していたことを知るとなおさらだ。
「勝利確率約90%」と予測を誤った原因
その「勝利確率約90%」のクリントンはどこの州で負けたのか。上記ロイターの記事に投票前の州別支持率が載っているので、これを実際の選挙結果と比べてみた。
敗因の原因は、7つの接戦州(以下、激戦州で統一)の苦戦と優勢州だった2州(ウィスコンシン、ペンシルベニア)での取りこぼし、逆転敗北だ。
ロイター記事が激戦州と判定した7州は、支持率の差が1~3%で、どちらに転んでもおかしくなかった。クリントンは、7州のうち3州(ニューハンプシャー、ニューメキシコ、ノースカロライナ)で勝利したが、フロリダ(29)、オハイオ(18)、ミシガン(16)など、選挙人の多い州で敗北したため、激戦7州全体では、トランプ69VSクリントン24と大敗した。
取りこぼしのウィスコンシンでは、クリントンが6%差、ペンシルベニアでは3%差をつけていたが、トランプパワーが事前予測を覆した。ほんのわずかの差だった。ミシガン0.22%差、ペンシルベニア0.72%差、ウィスコンシン0.76%差とコンマ1%の差が明暗を分けた(ウィキペディア)。
こうして見てくると、ロイターが、「勝利確率約90%」と予測を誤ったのは、ひとつには、激戦州でのクリントン票を見誤ったことが原因とわかる。今回の選挙も、同じ過ちを繰り返す恐れがあるのではないか。
開票時には、この激戦6州に注目
今回の選挙では、ロイターは、次表に挙げた6州を勝敗を左右する州として注目し、支持率の結果をサイトに詳しく掲載している。選挙人数の合計は101人だ。この6州に加え、オハイオ州(18)も激戦州で、要注目だ。
ロイター/イプソスの大統領候補者支持率調査 | ||||
州 | 2020年 | 2016年 | ||
バイデン | トランプ | クリントン | トランプ | |
アリゾナ(11) | 50 | 46 | 42 | 47 |
フロリダ(29) | 49 | 47 | 48 | 47 |
ミシガン(16) | 51 | 43 | 46 | 45 |
ペンシルベニア(20) | 51 | 44 | 48 | 45 |
ノースカロライナ(15) | 48 | 47 | 46 | 47 |
ウィスコンシン(10) | 51 | 44 | 46 | 40 |
※候補者の数字は支持率(%)。赤字は優勢を示す。州名の数字は選挙人数 |
(米国の大衆紙、USAトゥデイも同じ6州に焦点をあてた記事を書いており、ニューヨーク在住の日本人ジャーナリストがUSAトゥデイに取材をプラスした分析記事を書いている。時事通信も、この激戦6州の情勢をコンパクトにまとめている)。
この6州は、前回、トランプがすべて勝利した州だが、10月9~13日調査の段階では、表に見る通りバイデンがすべての州でリードしている。しかも、フロリダ、ノースカロライナは僅差だが、ラストベルト3州などは差が大きく、トランプがひっくり返すのは難しいのではないか。もっとも、クリントンは、ウィスコンシンで6%の差を付けながら負けているので逆転の可能性ゼロとは言い切れないが。
番狂わせの要素が減った
この支持率を強化するような有権者の動きもロイターは伝えている。それは、第一に、投票先をまだ決めていない人の数が4年前に比べてずっと少なく、どちらを選びそうかという点でも五分五分という点だ。
つまり、かなりの人が投票先を決めているうえ、決めてない人もその半分は、トランプに投票しそうもないので、バイデン優勢の現状は、選挙戦でもあまり変化しないということだ。
第二に、2016年に比べて期日前投票数が格段に多くなっていることだ。フロリダ大学の「USエレクションズ・プロジェクト」によると、16日までに期日前投票を済ませた人は約1500万人にのぼり、前回選挙の約140万人を大きく上回っている(同じ期間の比較)。新型コロナウイルスの影響で、投票日の混雑を避けようとする有権者が増えたようだ。
これはトランプに不利な材料と見られている。というのは、前回選挙では、トランプとクリントンのどちらに票を入れるか迷っていた人が多く、そうした有権者が選挙戦の波乱要素となった。今回は、最後まで迷う人が減った。トランプパワーを発揮するチャンスは薄れ、投票での波乱は起きにくい。
以上、今回の民主党優勢の予測は当たりそうに見えるが、もちろん現職有利などの条件もあり、それでもやっぱり、トランプ勝利を予測する向きも少なくないだろう。リベラル派のマイケル・ムーア映画監督は、「今回の大統領選が2016年と酷似している」とトランプ再選の警鐘を鳴らしている。「ふたを開けてみないとわからない」思いは最終結果が出るまで消えない選挙である。
また、気にかかるのは、トランプ支持派によるミシガン州知事誘拐未遂が起きるような米国社会の分断ぶりだ。平穏に選挙が終わるのだろうか。