米国で世界最大の大型蓄電システム その実力

目次
数字で表せば「100万kWを1時間発電」
100万トン以上のCO2排出ストップ
2026年に市場は8.5倍に拡大

 米フロリダ州で二次電池を利用した世界最大の蓄電システムが今年後半に運用を始める。隣接する太陽光発電の電気を蓄え、フロリダ州にあるディズニー・ワールド・リゾートを最大7時間運営する電力を供給できるという(FPL News Releases)。「世界最大」とは言ってもまだその程度なのである。

 ただ、電池は技術的なブレークスルーの可能性がまだまだありそうだし、「その程度」とは言え、世界が「カーボンゼロ」に動き出したいま、再生エネ発電とセットで組み合わせた定置型蓄電池市場が急速に拡大するのは間違いない。EV(電気自動車)用の電池ばかりが注目されるが、町へ電気を送る大規模蓄電システムについても目を向けてみた。まず、蓄電システムの性能はどれほどに達しているのかを確認してみよう。

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数字で表せば「100万kWを1時間発電」

 冒頭のフロリダ州のシステムとは、米国で500万世帯に電力を供給している「フロリダパワー&ライト(FPL=Florida Power & Light Company)」がフロリダ半島中西部に建設を進めている「マナティ・エネルギー蓄電センター(Manatee Energy Storage Center)」のことだ。

 最大900MWh(メガワット時)の蓄電性能を有している。日本ではキロワット(kW)の単位の方が頭に入りやすいので、換算すると90万キロワット時になる。つまり、90万キロワットの原子力なり火力なりの発電所が1時間で生産する電力量を貯めこむことができる。

 それが、「ディズニー・ワールド7時間運営」に匹敵するわけだが、FPLは、ほかにも「iPhone1億台使用可能」「32万9000戸に2時間、電力供給できる」ともたとえている(FPL NewsRelease)。

 現在、世界最大規模の蓄電システムは、テスラが2017年11月にオーストラリアの南オーストラリア州に建設した約13万キロワット時の設備だ。

 ちょっと話が逸れるが、この蓄電システムは、2016年9月に同州が50年に一度という大嵐に直撃され、州全体で停電が発生したのをきっかけに建設された。「契約締結から100日間で運転開始」という合意だったが、テスラのイーロン・マスクCEOは、期間内に完成させなかったら、「無料で引き渡す」と啖呵を切り、見事、合意を果たすという逸話が付いている(新電力ネット)。

 フロリダの蓄電システムは、その約7倍の発電力だから、圧倒的な世界一の規模になる。その感触は、大ざっぱに言って、出力100万キロワットの原発を1時間運転したときの発電量といったところだ。

余計なお世話ですが、【メガワットをキロワットに読み直すには】
 電力の記事でよく混乱させられるのが、メガワット(MW)、ギガワット(GW)の単位だ。海外ではワットを使うが、日本では、キロワットになじんでいる。
 そこでキロワットに読み直すには、メガワットならば、一の位をキロワットと読めばいい。5MWならば5000kW、123MWならば12万3000kW。ギガワットが登場したなら、一の位を百万キロワットと読めばいい。8GWは800万kW、456MWならば4億5600百万KWとなる。

100万トン以上のCO2排出ストップ

 運営するFPLは、同時に老朽化した天然ガスによる火力発電所を2基引退させ、100万トン以上のCO2排出をストップさせる。これにより、燃料費を1億ドル以上を節約できるという。 

 こうした「町に電気を送る蓄電池=定置型」の市場はまだ小さい。電動車(EV、HV=ハイブリッド車)用と民生用(家庭向け、通信基地局向けなど)が大半を占め、定置用はわずかだ(図=「蓄電システムをめぐる現状認識」13ページ 三菱総研)。

2026年に市場は8.5倍に拡大

 しかし、ここへきて、蓄電池の位置づけが、変わってきた。これまでは、非常用電源としてみなされることが多かった。ソーラーパネルを導入している家庭や事業所が自然災害などの停電時に蓄電池を使うケースだ。そのニーズは残るだろうが、伸びが大きいのは大型蓄電池の需要だ。再生エネルギーの導入が増えると、天候に左右されやすい太陽光、風力の電気を貯め、電力網に組み込む蓄電池の需要が高まる。

 矢野経済研究所が2020年10月に発表した予測では、定置用蓄電市場は、2026年には2019年の約8.5倍の12万666メガワット時(1億2066万6000キロワット時) に急成長するという(スマートジャパン)。
  
「2050年に据え置きの蓄電池が300倍は必要」という見通しも出ている(日経新聞)。

 リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、IT革命よりも規模が大きい「ET革命」が、環境・エネルギー(Environment & Energy)のフィールドで始まっている見る(「電池が起こすエネルギー革命」NHK出版)。ET革命は車の変革だけではなく非常に広範なフィールドで起こる変革になるという。この大きなうねりに乗って、いまは小さな存在の蓄電池が大化けし、分散型電源システムが進展する可能性を想像したりするが、どうだろう。

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