電気自動車(EV)は安くなるのか EVブームに沸く欧州

目次

永守CEO 「30万円EV」の真意
オモチャとバカにしてたらやられる
EVのコスト構造 モーターは2%程度

 欧州はいま、EV(電気自動車)ブームを迎えている。昨年、EVとPHV(プラグインハイブリッド)の販売台数は140万台にのぼり中国を追い抜いた。日本では、EV、PHVで3万7000台程度(2019年度)だから(次世代自動車振興センター)、欧州の勢いはすごい。

 だが、そうは言っても、欧州のブームは、政府の補助金に後押しされたもので、EVの価格の高さは今後10年近くは続くとウォールストリート・ジャーナルが伝えている。
「補助金がなければ、EVは依然として同クラスの内燃エンジン車より大幅に割高だ。アナリストらによれば、新技術や生産規模の拡大、競争激化などによって電池価格が低下する2020年代後半まで、こうした状況は変わらないとみられる」。

 日本でも、軽自動車EVの三菱ミニキャブMiEVの価格は約245万円で、同クラスのガソリン車よりも150万円も高い(ベストカーWeb)。

 EV普及には、①高価格、②航続距離が短い、③充電ステーションが少ない--の三つの壁が立ちはだかっているが、ここでは、低価格化の可能性について調べてみた。値下げのカギはバッテリーだ。

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永守CEO 「30万円EV」の真意

「EVは安くなる」の見通しで有名なのは、精密小型モーターメーカーの日本電産CEO・永守重信氏だ。昨年11月10日の講演で、「2030年に自動車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と発言して話題になり、今年1月25日のオンライン決算説明会でも、「EVの価格は最終的に30万円になる」と持論を展開した。

 同社のサイトに決算説明会の音声記録が4月初めまでアップされている。永守氏の歯切れのいい口調と、偏見なしにいいものはいいと認める合理的精神が聞いていて気持ちよかった。

「5分の1」になるという価格についてはこう説明している。
「500万円が100万円になるわけではない。平均価格が5分の1になる」。つまり、低価格のEVが広く普及し、EV車全体の平均価格を引き下げるというのが発言の真意だ。

 永守氏には、すでに中国で大ヒット中のEVが念頭にある。米GMと上汽汽車集団の合弁会社が開発した軽乗用車クラスの「宏光MINI」(写真)で、価格は約45万円。EVの性能を表すバッテリー容量は9.3kW時で、航続距離は120キロ。冷房が付くと約51万円。写真を見ると2人乗りのように見えるが4人乗りだ。容量アップして13.9kW時の上級車は約60万円だ(EVsmartBlog)。

 前述した三菱ミニキャブMiEV(バッテリー容量16kW時)は、価格は約245万円だから、宏光MINIの価格はまさに激安である。

 昨年7月の発売から人気爆発で、3カ月で5万5781台売れた。テスラのモデル3の同じ期間中の販売台数は3万5283台だった(ウォールストリート・ジャーナル)。中国ではテスラの人気も高いがそれを追い抜いた。

オモチャとバカにしてたらやられる

「日本の成熟した自動車市場では売れない」といった声が聞こえてきそうだが、永守氏は甘く見てはいけないと、決算説明会で、こんな感じでまくし立てる。

「あんなもんはオモチャやないかという人もいますが、なかなかよく出来ている」
「だいたい最初のころはバカにされて、あんなものは車じゃないと言われたりする。でも、完璧に出来上がった車を作っていたら安くはならない。45万円だから売れてるわけですよ」
「完璧に出来上がった車のメーカーさんが評論したらオモチャと言うかも知れないが、そんなことを言うとったらオモチャにやられる」
「最終的には30万円ぐらいになる。恐らくバカ売れする。アフリカでも。そういう時がやって来る」
説明会の44分50秒ぐらいから)

 軽乗用車クラスからEVが普及していくというシナリオは、中国ですでに現実化しているのでありそうだ。日本でも地方では軽乗用車は必需品に近いから、充電ステーションなどが整備されれば、低価格EVが売れるだろう。わが家では、長い間、車と言えば自転車しかなかったが、「買ってみようかな」という気も起きる。

 一方、世界のEVトレンドをリードするテスラは、もっと高価格帯のEV車の値下げで買い手を一気に増やそうとしている。昨年、イーロン・マスクCEOは、3年後をメドに、モデル3より1万ドル安い2万5000ドル(約260万円)のEV車を実現する計画を打ち出した。大幅値下げの主役はバッテリーで、新型リチウムイオン電池の開発に着手し、パナソニックにも開発を要請している(パナソニックはテスラをドル箱にできるか)。

EVのコスト構造 モーターは2%程度

 もともとEV車はガソリン車に比べ部品点数が圧倒的に少ない。ガソリン車10万点、EV車1万点とも言われ、シンプルなゆえに製造コストも下がるはずだ。にもかかわらず、EV車の方がはるかに高いのは、主にバッテリーにコストがかかるせいだ。

 EVのコスト構成を伝える「週刊東洋経済」(2020年10月10日号)によると、テスラ「モデル3」の場合、3万4720ドルの価格のうち、バッテリーが38%(1万3331ドル)、自動車の頭脳に当たるECU(電子制御ユニット)が7%(2434ドル)、モーターが2%(754ドル)となっている(同38ページ)。

 BMW製、GM製もバッテリーコストが占める割合は、それぞれ30%、40%なので、価格の30~40%がバッテリー代と思えばいいだろう(マークラインズ、ムンロ&アソシエイツの調査)。

 モデル3は自動運転だから、ミリ波レーダーなどコストがかかる部分はほかにもあるので、コスト低減のターゲットは、もちろんバッテリーだけというわけではない。

 それでも、バッテリーがEVコスト低減の柱であることに間違いない。
 
 バッテリーの価格はこれまで低減を続けているので、あまり価格を下げる余地がないとの見方もあるが、大量に売れれば、これまで以上の量産効果が出てくるだろうし、技術面でのブレークスルーも期待できる。

 市場の急速な伸びが予想されれば、その分野の「研究開発の技術者が増え、全く違った知恵が出てくる」(永守氏)からだ。実際、米国では、電池開発はいまや投資家の注目の的で、ブレークスルーが期待できそうだ(EV時代前夜、マネーはリチウム電池に向かう)。

 いずれにしてもEVの普及が加速するか、失速するか、2020年代に決着がつきそうだ。

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