中国-フィリピン 目の前の火種 1カ月居座る大量漁船団

目次
最初の船団確認は3月7日
フィリピン機に「ただちに去れ」
違法構造物を発見
海警法に関係?
昨年から活動は始まっていた
米中は強硬か譲歩か

 200隻を超える中国漁船がフィリピン西方沖に居座り続けて、もうすぐ1カ月が経つ。中国側は、「悪天候から避難しているだけ」と主張してきたが、これだけ居座りが長いと、さすがにその言い訳を繰り返せないだろう。中国の本当の狙いは何なのか。

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最初の船団確認は3月7日

 大量中国漁船のニュースが世界に伝えられたのは3月21日だが、フィリピンの沿岸警備隊がその存在を最初に見つけたのは3月7日だった。

 パラワン島から西に300キロ余り離れた南沙諸島のウィットサン礁(Whitsun Reef)付近で220隻が確認された。フィリピンが排他的経済水域(EEZ)としている海域だ。その後、183隻に減った後、3月27日には再び199隻まで増えた(フィリピンの日刊紙、Inquirer)。

フィリピン機に「ただちに去れ」

 フィリピンは、哨戒活動のため、軍用機を周辺海域に飛ばしたが、3月30日には、飛行中の軍用機に対し中国側から、「誤解を招く行動を避けるために、ただちに空域を去るよう」要求してきたという。

 これに対して、フィリピン機の搭乗員は、「こちらは、フィリピン政府機、EEZ上の海上をパトロール中」と正当な航空活動であることを伝えた。

 フィリピン側の抗議に対し、黄渓連(Huang Xilian)在フィリピン中国大使は、船は単なる漁船であり、悪天候から避難しているだけ、と説明しているが、避難にしては長すぎるだろう。黄大使が漁船であることを強調したのは、船団には「海上民兵」が乗船しているというフィリピンの非難を否定するために違いない。

違法構造物を発見

 30日の哨戒活動は収穫があった。ウィットサン礁近くで、違法に建設された構造物を発見したのだ(CNN)。フィリピン軍は、国際法違反だと非難する一方で、構造物の正確な位置やどんな構造物か、詳細は明らかにしていない。

 人工島なのだろうか。大量の中国漁船と、この構造物との関係は不明だが、フィリピン、中国、ベトナムが領有権を主張しているこの係争海域で、中国が領有権を確かなものにしようと、さらに歩を進めてきたと言える。

海警法に関係?

 この時期に攻勢を強めたのは、今年1月に、中国が海上警備に当たる海警局に武器の使用を認める「海警法」を成立させたことと関連付ける見方もある。フィリピン側が海警法に抗議していたことから、中国側がフィリピン側の出方を見極めようとしたというのだ(NHK)。
 

 東海大学の山田吉彦教授は、「海警法に基づきウイットサン礁を始めとしたスプラトリー諸島の実効支配の既成事実を積み重ねることが目的」と見る。フィリピンが、海警法による武力衝突を意識して中国漁船を排除しないと見込んだ行為だという(FNN)

 山田教授はさらに、「これは単なる予行演習に過ぎない。次は、東シナ海においても同様の手口で迫ってくるだろう。尖閣諸島に中国の大漁船団が押し寄せるのだ」と書いている。果たしてそこまで作戦を描いての大量漁船なのか。

昨年から活動は始まっていた

 海警法に結びつける見方が多いようだが、米国の調査会社、シミュラリティ(Simularity)は、ウィットサン礁への大量の中国船の出入りは昨年11月から始まっていたというリポートを3月24日に公表した。

 シミュラリティは、衛星画像をAIを駆使して分析する会社で、昨年12月13~14日の衛星写真には、ウィットサン礁に中国漁船20隻が200メートルにわたり壁のように横に連なっている。

 昨年から始まっていた動きだとすれば、海警法の成立とは関係なく、予定された行動だったと思える。

 漁船団は、その後、ケナン(Kennan)、ミスチーフ(Mischief)、フィエリー(Fiery)、スビ(Subi)など近くのリーフ(礁)にも移動しているという(前出Inquirer)。
 
※各リーフのフィリピン名は、Whitsun=Julian Felipe、Kennan=Chigua、Mischief=Panganiban、Fiery=Kagitingan、Subi=Zamora

 ミスチーフ礁には4隻の中国海軍の船が確認されている。これら4つの礁は、すでに中国が人工島を造成し、滑走路やミサイルを配備している。

米中は強硬か譲歩か

 対応に困っているフィリピンは31日に、エスペロン大統領顧問(安全保障担当)が米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と電話会談し、この問題について協議した(ロイター)。具体的な対応策は明らかにされていない。バイデン政権は中国に対しどんな対応を取るのか。米国は、欧日と対中包囲網を組む動きを見せているが、中国もここへきてイランと協力協定を結ぶなど、米国への対抗姿勢を鮮明にしてきた。そんな情勢の中、中国が起こした問題だけに、米中の今後のアクションは要注目だ。

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