荒川氾濫防ぐには「土嚢」しかないのか 遅れる京成鉄橋工事

昨年10月の台風19号で、荒川氾濫ー首都洪水が危ぶまれたが、今冬は、秋に大型台風島襲来を予感させる気候が続いている。嫌な感じだ。

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例年になく太平洋に暖気

東京は穏やかな天気で、西日本では穏やかどころではなく、23日の鹿児島の気温は20度を超えた。スキー場は雪不足に頭を抱えている。気象予報士さんによると、太平洋側の暖気が大陸の寒気を北へ押し上げているそうだ。

台風が勢力を維持・発達する条件は海水温27度以上という。厳密に言えば、暖気=海水温ではないし、冷夏の可能性がないわけではないと思うが、冬に暖気が日本列島に迫っているというニュースは、やっぱり嫌な感じだ。

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下町の区長さんたちも危機感を感じているようで、16日に江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)の区長らが、国土交通省を訪れ、京成本線・荒川橋梁(葛飾区、足立区)の早期架け替えを求める要望書を赤羽国交相に手渡した(読売新聞)。

すでに着工予定より2年遅れる

京成本線荒川鉄橋(堀切菖蒲園駅寄り)。周囲の堤防より低いのがわかる(2019年10月24日Kobaちゃん撮影)

京成本線荒川鉄橋は、荒川下流域の氾濫のウィークポイントになっている。周囲の堤防より3.7㍍も低いのだ。

そんなに低くなったのは、地盤沈下のせいだ(詳しくは、昨年の当ブログに図解入りで書いたので、ご参考に)。当然、鉄橋のかさ上げが必要だが、工事は着工予定よりもすでに2年近く遅れている。

2015年10月に出された国交省関東地方整備局の資料には、図のように、平成30年度(2018年度)に着工して、7年かけて平成36年度(2024年度)に工事終了することになっているが、現在も着工に至っていない。

当方も台風19号後に、現地を確認したが、工事の準備すらしている様子はなかった。

それもそのはずで、地域の広報誌「堀切地区まちづくりニュース」を見ると(2019年9月)、地区の推進協議会で荒川下流河川事務所から工事の進捗状況について報告があり、まだ用地の測量、物件調査をやっている段階だそうだ。調査は、葛飾区側は終了し、足立区側は約8割終了しているという。

「今後は、引き続き、順次利権者の方々と移転などに関する話し合いを進めていく」という。一般的に用地交渉の時間にどれぐらいかかるのか知らないが、とんとん拍子に進んでも、2020年度着工という感じではなかろうか。それから工事に7、8年かかるから完成は早くても2027年度というところか。

ちょっと前までは、いまほど荒川氾濫の切迫感は強まっていなかったから、工事の遅れが見過ごされていたのもやむを得ないという見方はあるだろう。だが、洪水の被害規模を想定すれば、事業の優先順位としてはかなり高く、急ぐべき事業だった。

現に、少し下流の京成押上線荒川橋梁では、2002年にかさ上げ工事が完成している。こちらは、タンカーが鉄橋に衝突する事故があり、工事が急がれたようだ。残念ながら、人の命が失われたり、大きな事故がないと、政府も自治体も企業も動かない。
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河川事務所、京成電鉄さん、いまから万全の体制を!

だが、できないものはしょうがない。工事が完成するまでは、何とかしのぐしかないのだが、朝日新聞の記事を読むと、頼りは土嚢どのう作戦のようだ。

記事は、次のように台風19号来襲時のことを書いている。

全国の河川で治水を手がけてきた河川工学者の宮村忠・関東学院大名誉教授は、荒川の増水に備え、荒川下流河川事務所に、鉄橋に土嚢を大量に積み上げるよう助言していたという。「計画運休で電車は止まるんだから、運行の妨げにはならない。必ずやるように」
と。

10月12日の昼。台風の中心に先行する雨雲が山間地域に激しい雨を降らせていた時だ。すでに江戸川区では避難勧告が出ていた。宮村氏に荒川下流河川事務所から、「今からやります」と連絡が入ったという。

しかし、土嚢を積み上げた急ごしらえの堤防で、大河川の激しい流れを防ぎきれるだろうか。

どうも、宮村教授も、土嚢堤防の強度に確信を持っているわけではなさそうだ--そんなふしを感じさせるインタビューがある。

日本ダム協会のインタビューだ(2011年4月作成)。宮村教授は、こう語る。

「海からは高潮ですし、ゲリラ豪雨、利根川の堤防が切れるかも知れないし、荒川が溢れるかもしれない。それに地震が来るかもしれない。それでどうしようかと言っても守りようがない、防ぎようがないのです。地震対策といってもキリがないし。もう防げないならあきらめちゃおう、別の視点でみてみようと。」

インタビュアーも、驚いたようで、「え、防災をあきらめるのですか?」と受ける。教授は、「ただ投げ出そうというのではありません。災害は防げないのならば、復旧だけは早めようという考えにシフトすることです。」と答えている。

土嚢堤防の効果には疑問も残るが、治水のプロが対策として勧めるのだから、それしか氾濫を防ぐ方法はないのだろう。

残念ながら、朝日の記事には、どの程度の土嚢堤防を築いたのか、効果はあったのか、線路の上に土嚢を積んで京成は運休したのか、などといった情報は書かれていない。河川事務所が報告を残しているとは思うのだが。

当時の荒川の水位も実際はどんな状況だったのかは知りたいところだ。国交省の「川の防災情報」というサイトで検索すると、全国の主要河川の観測所における雨量・水位を知ることができる。過去1週間のデータまで遡ることもできる。

でも、京成鉄橋付近のデータはない。付近に観測所がないのだろう。それに、いまとなっては昨年10月のデータは見ることはできない。

夏から秋の台風シーズンに備え、荒川下流河川事務所、都、足立、葛飾区、京成電鉄には、強固な土嚢堤防作りの研究を重ね、大量の土嚢を用意しておくなど、素早く臨時堤防を構築できる体制を整えておいてもらいたいものだ。かさ上げ工事が完成するまでの7,8年はそうやってしのぐしかないようなので。

※台風19号時の荒川の水位の様子については、こちらを。「台風19号で荒川は本当に氾濫しそうになったのか

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