IBMに反論くらったグーグル量子コンピューター その実力はいかに?

グーグルが発表した量子コンピュータの計算結果は、ライト兄弟の有人初飛行級の偉業なのか、それともIBMが批判するように過大評価なのか--

グーグルが発表したのは10月24日(現地時間23日)。「最先端のスパコンで約1万年かかる乱数をつくる問題を、量子コンピューターはわずか3分20秒で解いた」(日経新聞)という驚異的な計算能力で、研究グループは「コンピューターの開発史において1903年のライト兄弟の有人初飛行に匹敵する意味をもつ」と自賛した。発表の内容は、英科学誌「Nature」に査読を経て23日付で掲載された。

これに対し、量子コンピュータを開発しているライバル企業のIBMが異を唱えている。批判のポイントは二つある。

IBMが反論 ポイントは二つ

ひとつは、スパコンの計算能力に対する過小評価。「IBM研究員のエドウィン・ペドノー氏、ジョン・ガネルズ氏、ジェイ・ガンベッタ氏はブログで、「同じ計算を、従来のコンピューターなら2日半でより正確に解ける」と反論」している。さらに、従来のコンピューターに改良を加えれば、計算時間をもっと短縮できると言う(BBC)。

もうひとつは、グーグルが今回、「量子超越性」を達成したと主張している点だ。量子超越性とは、「既存のコンピューターを実質的に凌駕した」状態を言い、グーグルは「従来型のコンピューターでは対応が難しかったり、全くできない課題について、量子コンピューターは完全にクリアできることを示した」と説明する(ロイター)。

これに対し、先のブログでIBMの研究員らは、「誤解を招きかねないとした上で、「量子コンピューターが従来のコンピューターを『超越』することは絶対にない。それぞれに独自の強みがあるのだから、協調していくことになるだろう」と述べている(前出BBC)。

IBM研究員のブログは、10月21日にアップされた。「あれ、グーグルの発表前なの?」と疑問に思うだだろうが、実は、グーグルの研究論文の草稿が、9月にインターネット上に誤って漏えいしていたそうだ(WIRED)。

その草稿の中で、グーグルは「3分20秒VS約1万年」と誇らしげに語るが、「1万年の性能」の烙印を押されたのは、IBMが開発した世界最速のスパコン「Summit」だった(同上WIRED)。ブログで反論したIBMの研究員たちがスパコン担当なのか、量子コンピューター担当だなのかは不明だが、自社開発のスパコンの能力を実力以下とみなした計算結果に黙っていられなかったに違いない。

もっとも、IBMの研究員たちが批判しようとも、グーグルの計算結果そのものは、査読を経たうえでもあり、揺るがない。ただ、「グーグルは非常に狭い分野の課題をクリアしただけで、量子コンピューターの実用化までの道のりは、なお長いといった懐疑的な声も聞かれる」(前出ロイター)。「画期的だが、かなり限定した成功で実用化はまだ遠い」という意味では、飛行時間わずか12秒のライト兄弟による人類初飛行へのたとえは的を射ているのかもしれない。

専門家の感触も同じようだ。「今回の実証実験には関わっていない、ユニバーシティ・コレッジ・ロンドン(UCL)のジョナサン・オペンハイム教授は、「これは素晴らしいデバイスであり、間違いなく画期的な出来事だ」と賞賛しつつも、「我々が関心を持っている問題を解くことができる量子コンピューターの開発には、あと数十年かかるだろう」と述べる(前出BBC)。しかし、ビジネス化に挑戦している人たちの視線からは、用途を限定すれば、実用化はそれほど先ではないらしい。

2~3年程度で化学業界で使われる

量子コンピューター用ソフト開発の「Jij」山城悠代表(東京工業大学博士課程在籍)は、「今回のグーグルの量子コンピューターのスペックは、53量子ビットで、研究者が考える最終形は100万量子ビット」と言う。山城氏の感触も、今回の結果は、ライト兄弟初飛行といったところか。ただ、「1量子ビット増えると性能は倍増するので、100~200量子ビットに達すれば、産業で実用できる」と見通す。

では、どんな分野での実用化が想定されているのか(暗号解読の用途についてはこちらにまとめた)。

量子技術の実用化を推進する「QunaSys」の楊天任代表(東京大学大学院修士課程休学中)は「グーグルは2022年までに、環境問題に役立つ成果が生まれるという主旨の主張をしています。僕の実感から言ってもこれから2~3年程度で、化学業界で量子コンピューターによる変化が起こりそう。つまり何と何を合成すればもっと環境負荷が低く、低コストで化学物質を作ることができるのか、というシミュレーションが従来のコンピューターより容易になると思います。それは決して、たくさん生まれるわけではないけれど、1つでも2つでも新しい合成方法が判明すれば、産業的インパクトは大きい」と語っている(いずれもダイヤモンド・オンライン)。
量子コンピューターの専門家たちの相場感覚は、大体こんなところなのだろう。

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