ペンス副大統領の中国批判演説 中国に歩み寄ったのはなぜか

「米中間の新冷戦の始まり」と昨年伝えられた米国、ペンス副大統領の対中演説が今年も10月24日に行われた。

この演説のために、ペンス副大統領は、天皇即位礼正殿の儀への出席をチャオ運輸長官に託するほど力を入れており、昨年同様、再び、中国を激しく批判するか注目されていた。

注目の演説は、数多の批判を繰り出したが、中国との断絶を望んでいないことも明らかにし、メディアや評者の受け止め方も硬軟分かれた。

昨年10月5日の演説では、ペンス副大統領は「米国の民主主義への干渉」「南シナ海での無謀な行動」「米国の知的財産権の窃盗や強制的な技術移転」などをあげて、その批判の激しさが世界を驚かせた。

今年の演説でも、中国は1年経った今も、経済関係を改善する行動を取らず、「我々が提起した他の多くの問題に関して、中国政府の行動はより攻撃的になり、不安定化しています」(海外ニュース翻訳情報局=ボランティアによる訳だそうです。ありがとうございます)と非難する。

人権についても、「今日、中国共産党は、世界がかつて見たこともないような監視国家を建設しています。何億台もの監視カメラがあらゆる視点から見下ろしています。少数民族は、警察が血液サンプル、指紋、音声記録、複数の角度からの頭部撮影、虹彩スキャンまで要求される任意の検問所を通過しなければなりません」と指摘し、また、「この1年間、香港の騒乱ほど自由に対する中国共産党の反感を露呈することはありませんでした」と中国共産党が嫌がる香港デモを取り上げた。

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中国と「デ・カップル」しない

しかし、その一方で、中国との断絶は避ける意思をはっきりさせている。

「とはいえ、大統領は同様に、米国は中国との対立を求めないことを明確にしました。私たちは公平な競争の場、開かれた市場、公正な取引、そして我々の価値観の尊重を求めます」。

「トランプ政権が中国から「デカップル(分断)」を望んでいるかどうかを問われることもあります。その答えは明らかに「No」であり、米国は中国と中国のより広い世界への関与を求めています。しかし、公正さ、相互尊重、国際的な商取引のルールに合致した方法での関与です」

「ペンスは合意に達したい」と中国紙

こうした発言に、中国側も意外だったようだ。昨年のペンス演説に対しては、「「多くの専門家たちは、(東西冷戦の始まりを告げた)ウィンストン・チャーチルの1946年の鉄のカーテン演説を思い起こし、米中間の新たな冷戦の始まりと信じた」と伝えた「環球時報」(人民日報の姉妹紙)は、米国の歩み寄りの部分を評価している。

「ペンスは演説の後半で、中国と貿易協議の合意に達したいと望み、米中関係を改善したいという積極的な態度を示している。ペンスは中国とデカップリングしたい(中国共産党や中国政府や中国企業との接触を断ちたい)とは思ってないとさえ言い、かつ米中両国の指導者の個人的な友誼を強調している。おまけに米中関係が両国人民にさらなる福祉(と利益)をもたらし、美しい関係と未来を達成することを希望しているとまで言っているのだ」(ニューズウィーク)。

昨年よりも、こうした柔軟なトーンを盛り込んだのは、トランプ大統領の弾劾手続きが進んでいる中、ペンス副大統領が、自身が大統領になる可能性が出てきたため、との見方もあるが(現代ビジネス)、やはり、トランプ大統領が来年行われる大統領選での再選を意識したからだろう(別の現代ビジネス)。

来月、チリで行われるAPEC首脳会議で、習近平国家主席と会談し、通商協議を部分合意させトランプ支持層にアピールさせたいとみるのが妥当ではないか。まさに、「一時休戦」させたいわけだ。

本音は「お別れ宣言」

その一方で、中長期にわたる米国の対中姿勢は「要警戒」で変わっていない。ペンス演説も、中国と「デ・カップル」しないと言いながら、それと正反対のことを前半部分で宣言している。

「米国とその指導者たちはもはや、経済的関与だけで共産主義中国の権威主義国家が、私有財産、法の支配、国際通商規則を尊重する自由で開かれた社会に変わることを期待しないでしょう」。

中国とは「水と油の関係」で交わることはないというあきらめの心境で、「デ・カップルしない」どころか、お別れ宣言だ。

経済が発展すれば、中国は自由で開かれた社会に変わるとの考えに基づく対中政策は、中国がますます権威主義を強める現実を前に信頼を失ってしまった。トランプ大統領の政策には反対は多いが、こと、対中強硬策については、超党派の支持が得られている。ウォールストリート・ジャーナルは「(議員の)こうした批判は少数にとどまっている。民主、共和両党とも、対中政策では総じてトランプ氏に広範な裁量権を与える方針を示しているからだ」と伝えている。

「2017年の国家安全保障戦略に明示されているように、米国は今や中国を戦略的・経済的ライバルとして認識しています」と演説を続けるペンス副大統領の言葉こそ、誰が大統領になっても、今後の米国の対中政策の基本になるのだろう。

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