日本の首相も日米安保条約を破棄できる!?

前回ブログでは、米大統領が日米安保条約のような条約を議会の承認を得ずに破棄できるのか調べた。答は「イエス」だった(Kobaちゃんの硬派ニュース)。

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IWC脱退は閣議決定

日本はどうなっているのかなと思い、調べてみた。米国のように権限の強い大統領制ではなく議院内閣制だから、国会の承認が必要だろうと予想していたが、案に相違して、承認不要だった。正確に言うと、少なくとも政府は、不要の姿勢を取ってきた。

思い起こせば、昨年12月に国際捕鯨委員会(IWC)脱退を決めたのは閣議だった。菅官房長官の談話を読むと、「国際捕鯨取締条約から脱退することを決定しました」と「IWC脱退」ではなく「条約脱退」とある。

条約の国会承認については、参議院外交防衛委員会調査室のスタッフがきちんとしたレポートを書いている(中内康夫「条約の国会承認に関する制度・運用と国会における議論」)。ただ、発行時が2012年7月なので、ちょっと古い点に注意が必要。

条約の廃棄・終了については、後半部17㌻にこう書かれている。
「政府は、従来より、条約に廃棄・終了規定がある場合にはその規定に基づき行政府限りで実施し得るものであるとして、国会の承認を得る必要はないとの見解を示している」(衆議院外務委員会での海老原紳外務大臣官房審議官の答弁。1998年4月17日)。「廃棄」は「破棄」と同意と解釈して問題なかろう。

実際、戦後の日本が二国間条約の終了通告を初めて行った日韓漁業協定は、閣議決定だけで国会承認を求めていない。1998年1月のことだ。

しかし、条約に廃棄・終了規定がない場合は「政府は、こうした条約を廃棄・終了させた例はこれまでないため、現時点では明確な見解はなく、その必要性が生じたときに、憲法の趣旨も踏まえて慎重な検討を行った上で国会承認の要否を判断したいとしている」(衆議院外務委員会での栗山尚一外務大臣官房審議官の答弁。1981年5月11日)。

国際捕鯨取締条約はどうだったのかを確認してみると、第11条に、「締約政府は、いずれかの一月一日以前に寄託政府に通告することによつて、その年の六月三十日にこの条約から脱退することができる」(データベース「世界と日本」)と廃棄・終了規定に相当する内容が定められている。政府は、従来の姿勢通り、閣議で脱退を決めたことになる。

Kobaちゃんが知らなかっただけだが、条約破棄については、意外と内閣の権限が強いことが分かった。

外交に民主的コントロールは必要

ただ、憲法の観点から問題点を指摘する学者もいる。水島朝穂・早大法学学術院教授は、こう主張する。
「国際機関からの脱退を内閣が勝手に行い、国会にも説明せず、記者会見もすぐに開かない。この「聞く耳を持たない」姿勢は一貫しており、安倍政権の「国会無視」「憲法軽視」の姿勢の到達点ともいえる」(東京新聞)。 前述の中内氏も、「国会による外交の民主的コントロール」の必要性を訴えている。

日米安保条約をチェック

そして今回、条約の破棄を調べるきっかけになった日米安保条約を最後にチェックしておこう。

米国大統領は、法的には米議会の承認を得ずに、日米安保条約を破棄できることを前回書いたが、実は日本の首相も閣議決定すれば、国会の承認なしに破棄できる。

日米安保条約の10条に破棄・終了の規定があるからだ。
「この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する」(外務省)。

現実問題として、日米安保のような国の将来を左右するきわめて重要な問題を国会の審議に諮らず破棄したら、内閣はもたない。閣議決定も覚束ないだろう。ありえないことではあるが、逆に、首相が退陣を覚悟すれば、勝手に破棄できるということだろうか。専門家に聞いてみたいが、専門家は、そんな馬鹿馬鹿しい想定を考えてないかな。