米中通商交渉、いつ合意? 香港も絡み不透明感は増すも、決裂はありえない

10月に米中間で暫定合意した米中通商交渉が、想定していた時期を過ぎても最終合意に至らず、それどころか「合意は来年に先送り」と、ロイターが21日報じた。中国側の新たな要求と見られる追加関税撤廃で話がまとまらないようだが、香港民主化問題やトランプ大統領弾劾も絡み始めた。この間の経過を整理してまとめてみた。今後の先行きは、不透明感は増してきたものの、暫定合意を覆すとは想定しにくい。

米中交渉の重要性は低下か

いささか結論先行の想像ではあるが、トランプ政権にとって、米中通商交渉はある意味”既決”の問題で、その重要性は相対的に低下しているのではないか。政権内の課題として、ワン・ノブ・ゼムのひとつになったから、他のゼムで有利になるため、譲歩したり、決裂しない範囲内で強硬になったりするのではないだろうか。

まず、いまの交渉の位置づけを確認しておこう。
10月11日に、米中両政府は、農産品や為替など特定分野で部分的に暫定合意した。中国の劉鶴リュウ・ハァ副首相がワシントンに渡り、閣僚級の協議がもたらした成果だ。中国が米農産品の輸入を増やすほか、通貨政策で透明性を高めるという。トランプ政権は10月15日に予定していた中国製品への制裁関税の引き上げを先送りすることを決めた。その後、最大5週間かけて詳細を詰め、文書に落とす作業を進めることになった(日経新聞)。いま行われている交渉は、つまり、この「文書に落とす作業」というわけだ。

11月初旬は、合意に楽観ムード

この暫定合意は、「第1段階」と呼ばれる。米農産物の大量購入など合意しやすい案件に絞り、厄介な問題--中国政府の企業に対する補助金や米企業への技術の強制移転などを第2、第3に先送りしている。トランプ大統領が交渉の成果を国内にアピールしようと考えた末の手順だろう。

米中、少なくとも米国側は、10月にチリで開かれることになっていたAPEC首脳会議の場を利用して、トランプ・習会談を開き、米中合意に署名する演出を考えていた。

ところが、チリ国内は、反政府デモによる混乱しており、政府はまさかのAPEC首脳会議中止を決めた。しかし、トランプ大統領は、10月31日のツイッターに、「中国と米国は、第1段階貿易協定を署名するため、新たな開催地の選定に取り組んでいる。新開催地は近く公表される。習近平国家主席とトランプ大統領は必ず署名する!」と合意へ向け意欲満々のツイートを投稿した(ロイター)。

交渉の先行きも楽観的な見通しが伝えられた。
「米中両国は1日、通商問題を巡る閣僚級の電話協議で進展が得られたことを明らかにし、米当局者は月内に「第1段階」の合意に署名する可能性があるとの見方を示した。
カドロー米国家経済会議(NEC)委員長はこの日、米中交渉官が第1段階の通商合意に向け「大きく前進」したと述べた」(ロイター

こうした米中合意期待ムードに乗り、ニューヨーク株式市場では、4日にダウが2万7462.11ドルと3カ月半ぶりに過去最高値を更新、その後も上昇し、15日には2万8004.89ドルと初めて2万8000ドルを突破した。

追加関税撤廃の要求で不透明に

この「第1段階」合意の中に、米政府が「9月に中国製品に課した制裁関税の取り下げ」を盛り込もうと検討、との記事を英フィナンシャル・タイムズ(FT)が5日、報じた(日経新聞)。

追加関税の取り下げが暫定合意に含まれていたのか定かではない。でも、その後の米国の反応を見ると、中国側の新たな要求のようだ。
だとすれば、FTの記事が事実なら、米国側の譲歩だ。

それを意識してか、中国は7日、商務省の高峰報道官が会見で、「中国と米国がここ2週間の間に、双方が貿易戦争の過程で発動した追加関税を段階的に撤廃することで合意した」と述べた(ロイター)。
自国の主張を展開する場が多い中国の政府記者会見で、米国でまだ報じられていない交渉の経過を先に伝えるのは珍しいことだ。譲歩に喜んだのか。

新たな要求は、交渉がうまく行っているからさらに範囲を広げたとも解釈できる。現に日経は、「合意に至れば、米が12月15日に予定している制裁関税「第4弾」の発動も見送られる可能性がある」とプラスに評価した。

その一方で、新たな要求がネックになって交渉がこじれる可能性もある。8日のトランプ大統領の発言からは、こじれる要因になっているようだ。

トランプ大統領は記者団に対し、「中国は(追加関税)撤回を望むだろうが、私は何にも同意していない」とあっさり否定したのだ(ブルームバーグ)。

「合意は来年にずれ込む」との報道

13日には、交渉が「暗礁に乗り上げた」とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が関係筋の情報として報じた。「案の定、関税撤廃でもめているのか」と思いきや、すでに解決ずみと思われていた中国の米国産農産物購入が原因だというから、合意期待に冷や水を浴びせる記事だった。

「WSJによると、中国側は米国を一方的に優先する合意は望んでいないとの立場を明示。中国高官は「状況が悪化すれば、中国はいつでも(米農産品の)購入を停止できる」と述べた」(ロイター)。

そして、ロイターは20日、ホワイトハウスに近い関係者の話として、「米中通商協議の「第1段階」の合意が来年にずれ込む可能性がある」「中国が関税撤廃拡大を求めているほか、米国もそれに対応して要求を強めている」と伝えた。

ロイターはその前の19日に、「事情に詳しい関係者によると、トランプ米大統領が中国の関税撤廃要求を受け入れる場合、より包括的な内容になる可能性があるという」と伝えている。追加関税撤廃については、政権内に異論も多いが、トランプ大統領は、時間をかけても、合意のアピールを高めるために、合意分野をさらに広げることを模索しているのかもしれない。

弾劾対策に通商交渉を使うか

トランプ大統領は、恐らく下院で進む大統領弾劾調査のことで頭がいっぱいのはずだ。民主党が過半数を占める下院での弾劾訴追が決まるのは確実だ。その後の上院では、共和党から造反議員が20人以上出なければ弾劾は成立しないから、まず弾劾成立はありえない。

しかし、共和党員でもあきれるような事実が出て、世論が圧倒的に弾劾に与すれば、造反議員が輩出する。そんなときに備えて、上院での訴追審査時期をにらみながら、対中交渉カードを温存することを考えているかもしれない。

議会は、香港民主化を後方支援

香港の民主化問題も、交渉に影響を与える。
米上院が19日、全会一致で可決した香港人権法案に中国は猛反発している。「中国外務省の耿爽報道官は20日、香港人権法案が成立すれば報復するとウェブサイトであらためて警告」した(ブルームバーグ)。

また、米国側も、ペンス副大統領はこの日、ラジオ番組司会者とのインタビューで、「何らかの暴力が行われたり、この問題が適切かつ人道的に対処されなかったりした場合、われわれが中国と取引するのは極めて難しくなるとトランプ大統領は明確にしている」と語り、米中通商交渉と香港民主化が連動していることを明言している(同上ブルームバーグ)。

当面の焦点は、12月15日に予定されている中国製品約1560億ドル相当への追加関税を発動するかどうかだろう。

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