米中貿易紛争 トランプの思惑を超える対中警戒論

米中貿易紛争は、いつごろ、どんな結末が待っているのか。

その行方を左右するのは、やはり、米中の政治指導者たちが、この紛争をどう位置付け、どんなゴールをイメージしているかにあるだろう。恐らく、こんな風に考えているのではないか。

「アメリカの半導体メーカーの売り上げの半分以上は中国に輸出している。アメリカのスマホはほとんど全部中国から輸入している。したがって米中の貿易が途絶えたら、両国とも経済は完全に崩壊する。そんなことは起こりようもない」。

株式ニュースを流す「株探」サイトに投稿した投資ストラテジスト、武者陵司氏の文章である。米中の貿易がなくなったら、両国とも深刻なダメージを負うことはわかっており、双方ともそこまで争うつもりはない--米中に共通するスタンスなのではないか。

そのことを前提に、いま米中の思惑を推測するに、経産省米州課長の経験者である細川昌彦氏の小論(日経ビジネス)は説得力がある。

<米国側の思惑>
トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる。

<中国側の思惑>
習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう。
また、貿易戦争による米国経済へのマイナス影響で米国国内から批判が出て来るのを待ちたいものの、時間がかかりそうだ。しかも、中国経済の減速は明確で、人民元安、株安が懸念される。金融緩和、インフラ投資での景気てこ入れも必要になっている。米中貿易摩擦の経済への悪影響はできれば避けたい。

下院で過半数を民主党に奪還されると、弾劾の憂き目にあうトランプ大統領にとっては(Kobaちゃんの硬派ニュース)、11月6日の中間選挙での勝利が最大の関心事。中国側がよほどの譲歩を示せば別だが、公約通りに中国に厳しい姿勢を見せることが支持につながると考えているから、しばらくは決着に向かいそうもない。

何か手を打つとすれば、中国側かもしれないが、米中交渉がヤマを迎えるのは、米中間選挙後になりそうだ。

では、その時、どんな決着を迎えるのだろうか。最初に紹介した双方の指導者の基本スタンスを前提にすれば、中国が米国製品の大量購入を約束したり、米側が要求している知的財産権侵害への対応、国有企業への優遇是正などについて、中国がかなり実効性のある案を提示して、双方が矛を収めるという展開が予想される。

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ホワイトハウスから議会主導に

しかし、細川氏は、トランプ大統領の思惑を超えた対中強硬論が台頭しており、米中関係は、ホワイトハウス主導から米国議会主導に移っていくと予想する。

具体的な動きはすでに起きており、8月13日にトランプ大統領が署名した「国防権限法2019」は、米国議会の超党派によるコンセンサスで、現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まりを反映したものだという。

この法律は、貿易以外の分野も広く規制しており、「メディアで特に報道されているのは、そのうちの対米投資規制の部分で、中国を念頭に置いて、対米外国投資委員会(CFIUS)による外資の対米投資を厳格化する。先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ」という。

アメリカ政治に詳しい吉崎達彦・双日総合研究所取締役副所長も、
同じような指摘をしている。
「今のように、政権外でも対中警戒論が高まってしまうと、トランプ大統領が「そろそろ話をまとめるか」と思ったとしても、ちゃんと米中間のディールができるとは限らない。下手をすると、「降りるに降りられない」状態になるかもしれないのだ」(BLOGOSの2ページ目)。

今回の貿易紛争には、政権外の対中強硬論は影響を及ぼすには至らないかもしれないが、今後の米中関係で無視できない存在になっていきそうだ。

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