米国の「制裁封じ」にも使いたいデジタル人民元 中国内では紙幣代わりに

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中国が主要国としては初めて、暗号通貨であるデジタル人民元を発行する。今年夏ごろから、中国人民銀行幹部らが発行を示唆してきたが(ロイター)、いよいよ年内中に深センで小規模な運用を行い、2020年に深セン全体に広げると、中国経済誌『財経』が報じた(仮想通貨Watch)。

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 給料もデジタル化

日本でもよく知られているように中国は屋台でもスマホ決済ができるキャッシュレス社会。「お手伝いさんの給与7500元(約11万5千円)」もスマホで支払うなど、給料までデジタル化している(日経産業新聞12月5日)。

それほど現金離れしている中国社会だから、デジタル人民元の浸透は容易かもしれない。公務員の給料がスマホに、なんてことも想像する。

だが、国際社会への浸透となるとどうだろう。デジタル人民元発行によって、「中国が世界経済の基本インフラと標準を握る」とか「アジアは二つのブロックに分裂する」とか、現行の世界のシステムを揺るがす予想が語られているが、そうなるのだろうか。

国際的な通貨別の取引高を見ると、人民元のシェアは約2%と、ドル(約44%)、ユーロ(約16%)、日本円(約8%)に比べはるかに低い(日経新聞)。この数字からは、世界のシステムを揺るがすほど人民元の国際化が進んでいくとは思えない。

そもそも、中国はこれまで、元の国際化を思い描く一方で、元の過度な海外流出を警戒して資本規制を実施している。デジタル人民元は、その機能を十全に発揮すれば、間違いなく国際化へのアクセルとなるが、同時に資本規制というブレーキがかかっている。

だからと言って、高をくくらない方がいい。最新のテクノロジーは、開発者が意図しなかった使い道が発掘され、それをきっかけに一気に進むこともあるからだ。

デジタル人民元の場合、たとえば、インフレで通貨価値が安定しないアフリカや南米の国々で、価値を貯蔵する手段として使われるかもしれない。両替商で得たドル紙幣をタンスの中やマットレスの下に隠すよりも、デジタル空間に貯蔵しておく方がずっとスマートで安全だ。暗号通貨ではなく暗号資産としての利用法だ。

資本規制の方はどうだろう。中国経済にかつてほどの勢いがないので、一気に国際化するのは避けたいだろう。ただ、デジタル人民元を一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)と連携させるぐらいは考えていても不思議ではない。まあ、人民元国際化の行方は最終的には、習近平国家主席の「経済哲学、テクノロジー信頼度、覚悟」にかかってくるのだろう。

デジタル人民元の狙い

先は読みにくいが、まずは足元のデジタル人民元発行の狙いを整理しておこう。いくつか挙げられる(出所=日経新聞NHKなど)。

①海外向けも含め送金の利便性向上
*これは、デジタル人民元だけでなく暗号通貨一般の特長。現在、国際送金は複数の銀行を経由するので1~4日間かかるうえ、手数料も高い。暗号通貨は、きわめて短時間で手数料も安く送金できる。

②現金の流通をさらに減らし、金融機関の負担を軽くする
*現金の勘定や輸送にかかるコストと時間が省ける。

③お金のやりとりがすべて記録されるのでマネーロンダリングや詐欺などの犯罪抑止はもちろん、国内のマネーの動きを政府が把握できる。不正蓄財した現金の持ち出しによる資本流出防止
*中国当局は国境を越える資本移動の90~95%把握できているという。残る5~10%の流出をデジタル化で防ぐ

④ドルの通貨覇権から免れ、ゆくゆくは人民元経済圏を確立する
*ドルに対抗する人民元経済圏は、一帯一路構想やAIIB設立の時も言われた。

中国が一番恐れる”SWIFT外し”

これらに加えて、「フェイスブックが発行を計画している暗号通貨「リブラ」への対抗」という説もある。どれも該当するのだろうが、習主席の心を動かしそうな狙いは、③、④ではなかろうか。特に、「偉大なる中華民族の復興」の夢の実現に執念を燃やし、「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行」で夢の具体化に踏み出した習主席には、④は魅力的に映ることだろう。

実際、米中貿易摩擦でふたを開けた米中覇権争いの只中にいる中国にとって、ドルが支配する世界経済の現実はアキレス腱のようだ。

訪日した王勲・北京大学国家発展研究院リサーチフェローは、共同国際セミナーでこう言ったという。
「中国が最も恐れているのは、国際的な決済ネットワーク(SWIFT)や米国の決済システム(CHIPS)から中国企業が締め出されることだ」(日経新聞)。

SWIFT(国際銀行間通信協会)とは聞き慣れない言葉だが、世界200カ国の金融機関が参加する米ドル主体の国際送金ネットワークのこと。もしこのネットワークから外されれば、国際送金がままならいので、貿易取引が難しくなる。

SWIFTは、ベルギーに本拠を置く国際的な組織だから米国の一存で特定の国を排除できるわけではないだろう。しかし、国際送金する際、米国内にある米国銀行のコルレス口座を経由するのが普通だそうで、米国が自国の法律で他国の企業を罰する根拠になっている(「米国はなぜ海外企業を制裁できるのか 法的根拠は?」)。

米国は、経済制裁の一環として北朝鮮やイランなどの銀行をこの決済網から外しており、中国は、”SWIFT外し”を恐れているというわけだ。

ドル支配の一角に風穴を開けるデジタル人民元

デジタル人民元がグローバル企業に認知されて広く流通すれば、SWIFTの枠外でさえ人民元による国際決済が可能になる。現在、世界貿易の40%はドル建てで、原油取引にはドルが不可欠だが、デジタル人民元は、その現実に穴をあける。

習主席は10月24日、中国共産党中央政治局が開いた研究会に出席し、「ブロックチェーン技術の応用は、新たな技術革新と産業のイノベーションにおいて重要な役割を担う」とブロックチェーン技術を称賛している(仮想通貨Watch)。デジタル人民元のベースとなるブロックチェーンの技術は、人民元独自の経済圏を構築したい習主席の望みを現実化してくれるテクノロジーなのだ。

米コーネル大学のエスワー・プラサド教授(経済学)は、「中国にとって元のデジタル化は米国の強い影響から逃れる方法の1つ」だが、「ドルの転覆は必ずしも中国の目標ではない」という(ウォールストリート・ジャーナル)。「転覆」の野望も抱えていても、いまは時期尚早と判断しているのかもしれない。

プラサド教授は「中国はドルに代わる通貨を同盟国に与え、米国が邪魔できないシステムを築こうとしている」と推察し、「中国は米国による制裁の影響を受けにくくなりたいか。輸出入にドルを使う必要がなければ、その方が良いか。(中国にとって)答えは明らかにイエスだ」と語る。

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