米中交渉 残された争点と対華21カ条を想起する中国人の心理

米中通商交渉は、トランプ大統領が対中関税引き上げ期限の3月1日を延期したことで、交渉合意への期待が高まっている。難題を先送りさせたようなので恐らく合意に達するのだろう。残されている争点は、中国が交渉での約束をどう実行するのかを明らかにするよう米側が要求している点だ(South China Morning Post)。

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難題先送り

先送りした難題とは、「国有企業に対する補助金」だ。補助金は米国産の物品を大量に購入するといったカネで済む問題ではない。中国にとっては、中国共産党支配という統治体制にかかわってくる習近平主席にとっても問題であるし、米国にとっても安全保障上にかかわってくる。補助金が戦略的に重要な半導体などハイテク産業につぎこまれているからだ(Kobaちゃんの硬派ニュース)。

しかし、これまでの交渉で話には出ているかもしれないが、結論には至っていないらしい。ワシントンで21日から24日まで行われた米中閣僚級協議について、中国国営新華社は、「合意文書をめぐって交渉を行い、技術移転や知的財産権保護、非関税障壁、サービス業、農業、為替など具体的な問題で実質的な進展を収めた」と伝えており、補助金については言及していない。

トランプ大統領も補助金については触れず、自身のツイッターに「交渉は大きく進展した」「非常に生産的だった」と投稿しているのだから、この問題は最後まで避けて通るつもりなのだろう。

約束実行の検証

難題を先送りしてもまだ決着しているわけではなく、約束実行の検証をどう進めるかがハードルになっているわけだが、交渉は難航している。

米国は実行の進展度をチェックする基準を求めている。進展度を検証する両国タスクフォースを設置が議題になったがうまくいっていない。米側が一方的な措置(own unilateral enforcement )求めているが、中国は「主権にかかわる微妙な問題」とはねつけている。

「米国は中国の貿易をいつでもチェックできるよう望んでいるが、北京政府は”非常に尊大”な要求と言っている」(同上South China Morning Post)。

高まる反米感情 義和団の乱にたとえる

中国指導部はこれまで、米中貿易紛争が反米感情をあおり、ナショナリズムの高揚につながらないよう神経を使ってきた。しかし、中国内では反米感情が強まっているらしい。ウォールストリート・ジャーナルはこう伝える。

「トランプ政権が昨年5月に貿易上の様々な要求書-2000億ドルの貿易不均衡の削減や先端技術への補助金の中止などの要求-を渡して以来、中国では対米強硬の感情が高まってきた」。

そして驚いたことに、「多くの中国人はこうした要求を悪名高い日本の1915年の対華21カ条要求と対比させている」というのだ(同上)。

対華21カ条要求は、高校の歴史教科書にも出てきたが、第一次世界大戦中、日本が当時の中華民国政府に対して要求したもので、ドイツの権益下にあった山東省を日本の勢力範囲に置くこと、満蒙における日本の優越的地位を認めることなどを要求し、中国の民族意識に火をつけた。

さらには、何とに義和団の乱にまでたとえる。「中国の政府官僚は、米国の交渉団が中国に到着するのを見て、1901年の義和団の乱の時、西洋が取った行動にたとえた」(ウォールストリート・ジャーナル)。「到着」というより「乗り込んできた」と映ったのだろうか。

その官僚は「彼らはまたわれわれを脅しつけるのだろうか」と語り、清朝が西洋諸国と結んだ不平等条約に言及したという。

今回の米中交渉では、習近平主席は国内のそうした反米意識を抑えながらトランプ大統領との米中首脳会談でなんとか決着させる公算が大きいと思うが、習近平主席の脳裏にこそ対華21カ条要求や義和団の乱がよぎっているかもしれない。アヘン戦争に始まる西洋と日本の中国に対する植民地主義、帝国主義への怨念は簡単には消えないのだろう。