急がば回れ「封鎖都市ほど経済回復が早かった」 休業、在宅は経済対策

目次
1.大恐慌とは性質が違うパンデミック経済危機
2.「封鎖した都市ほど経済回復が早い」FRBエコノミスト論文
【行動制限しか感染防止の道はない】
【スペイン風邪に学ぶ経済対策】
【基本的枠組みに欠ければ、「行き当たりばったり」】
3.1カ月で感染拡大をストップさせるには

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1.大恐慌とは性質が違うパンデミック経済危機

 IMF(国際通貨基金)ゲオルギエワ専務理事の発言が最近、目を引いた。新型コロナウイルスによるパンデミックは、「世界大恐慌(Great Depression)以来最悪の経済的影響」をもたらすというのだ(AFP)。

「世界大恐慌」と聞くと、悲惨なイメージが浮かんでくるが、ゲオルギエワ氏が言う「大恐慌以来」とは、GDPの落ち込み幅のことだろう。

 世界大恐慌時のGDPの落ち込みは、1929年から1932年の間に推定15%減少した。米国では、1932年に15%近く減少した。

 リーマン・ショック時の2008年から2009年にかけては1%未満の減少だったというから、大恐慌のダメージの大きさがわかる。IMFは14日に世界経済見通しを公表するが、大恐慌に近い数字を出してくるのだろうか。
 

 ただ、IMFは、新型コロナ終息の時期により、複数の予測シナリオを出すようで、年内終息が最良のシナリオらしい(前出AFP)。流行が長引けば、経済へのダメージも大きくなる。同じ経済危機でも、この点こそ、世界大恐慌と今回のコロナ・ショックとの最大の違いだ。感染を押さえ込まない限り、街やオフィス、工場に人は戻らず、経済の回復は見えてこないのだから。

2.「封鎖した都市ほど経済回復が早い」FRBエコノミスト論文

 だから、対処法も違ってくる。世界大恐慌時は、ルーズベルト大統領が初めてケインジアン的な政策を導入して公共事業を増やしたり、金本位制から離脱するなど、経済・金融政策が危機脱出につながった。しかし、コロナ・ショックは、それだけでは足りない。

 では、どうすればいいのか--対コロナ戦略の基本的枠組みを示す論文が海外にあることを、在野の計量経済学者、室田泰弘氏がブログで紹介している。

 室田氏は、当方が長く教えを乞うている在野の賢人。米ペンシルベニア大で、ローレンス・クライン氏(ノーベル経済学受賞者)に私事し、日本経済研究センターなどで勤務したあと、独立して、都道府県別のGDPを算出するソフト、「エコノメイト」を開発した。近年は、世界経済、日本経済をパソコンで簡単に予測できるソフト「e予測」を自らプログラミングして制作してしまった。計量経済学だけでなくIT(それもハンパでない知見)にも精通した人だ。

【行動制限しか感染防止の道はない】

 で、「基本的枠組み」に戻るが、それは、疫学と経済学の二つの論文のことだ。

 疫学は、英国の理工系名門校、ロンドンインペリアルカレッジのニール・ファーガソン教授等による疫学的シミュレーションの論文を指す。

 この論文は、当初、集団免疫獲得を目標としていた英ジョンソン政権を、一転、都市封鎖の方向へと急転換させたと伝えられている(BBC)。
 

 以下、室田氏のブログから内容を引用させてもらう。

 論文が強調しているのは、感染拡大を防ぐには、都市封鎖など、医薬品に頼らない抑制策(NPIs:non-pharmaceutical interventions)の重要さだ。
 
 ファーガソン教授は、分析の前提として、①パンデミックになりつつある、②新型コロナの再生産数(R)は2.4程度(1人が2.4人感染させる)、③ワクチンは存在しない--の条件で考えを進める。

 対策としては、ワクチンがないので再生産数(R)を1以下に抑えるのは難しく、医薬品以外を使った抑制策(NPIs)しか打つ手がない。

 自宅隔離などのNPIsを打たなかった場合、5月から6月に感染のピークを迎え、人口の約8割が感染し、死者は約51万人に達する。病床数は大幅に不足し医療崩壊を招くという結論だ。ジョンソン首相は、この結論を聞いて、都市封鎖に踏み切った。

【スペイン風邪に学ぶ経済対策】

 もうひとつの経済学に関する論文は、FRB(米連邦準備制度理事会)エコノミストのセルジオ・コレイラ氏らによるパンデミックの経済分析だ。

 コレイラ氏は、1918年に始まり、世界で2000万人~4000万人の死者を出したスペイン風邪の米国における経済的影響を実績データに基づいて分析している。

 当時は、ワクチンは使われていなかったので現在のコロナウィルスパンデミックと同じ状況にある。コレイラ氏は、当時のデータを分析した結果、積極的なNPIsを早期に実行した都市はパンデミックの終了後、経済回復が早かったことがわかったという。

 室田氏は、二つの論文を紹介した後で、こう説明する(赤線は、当方が付けた)。
 
「つまり積極的なNPIsは単に感染数のピークを抑えて医療崩壊を防ぎ、死亡者数を減らすだけでなく(これがファーガソン論文の疫学的指摘)、経済対策としても、ワクチンがない状況においては最適である(コレイラ論文の主張)」。都市封鎖は経済対策なのだ。

【基本的枠組みに欠ければ、「行き当たりばったり」】

 そして、室田氏は、日本は、感染チェックの検査能力は不十分だし、緊急事態宣言も、自粛が主体で、アンチウィルス対策としては「too slow,too late」ではないかと心配する。何より、基本的枠組みの土台がしかりしていないので、「行き当たりばったりの対策を取っているように見える」と書くのもうなずける。

3.1カ月で感染拡大をストップさせるには

 ただ、疫学的アプローチの方は、日本でも、厚労省クラスター対策班のメンバーでもある西浦博・北海道大学教授が、数理モデルを駆使して、ファーガソン氏に負けないような分析をして頑張っているように思える(BuzzFeedインタビュー、「「このままでは8割減できない」「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由」)。
 

 問題は、「都市封鎖などNPIsは、経済対策」という認識が薄いことだろう。むしろ、「都市封鎖などNPIsは、経済に損失を与える」というイメージが優勢なのではないか。

 しかし、都市封鎖が不十分だと、感染が終息するまで長引く。西浦教授は、インタビューで、人の接触を80%減らせば、1カ月で感染拡大にブレーキがかかるが、65%だったら105日かかると語っている(当方が要約している)。

「そんなに違うのか」と驚くが、終息まで長引けば、営業自粛も長引き、所得補償の額は膨らむ。そうしなければ生活困窮者があふれ、自殺者も増える。だったら、都市封鎖を徹底させ、営業を完全にストップさせ、その代わりにケチらず、ドーンと所得補償を支払う方がいいのではないか--この数字を見ると、そう思えてくる。

 イタリアやニューヨークのような医療崩壊は最悪のケースだが、そこまで行かずとも、高水準で患者が発生する日々がダラダラと続き、しかしながら、経済的に自粛に耐えきれなくなった人たちから解除の声も高まり、解除か延長かをめぐり議論が二分する日が来るのではないか。

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