無名企業が中核技術を握る オックスフォード大ワクチン

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 前回ブログで、オックスフォード大が開発した新型コロナワクチンでは、オックスフォード大の名前が前面に出ているが、無名企業が重要な役割を果たしている、と書いた。今回はその続きです。

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世界中のマネーを集めるバクシテック

 その無名企業とは、バクシテック(Vaccitech)というワクチン、免疫療法を開発する企業で、今回の新型コロナの「ワクチン開発に不可欠の知的財産を保有している」(ウォールストリート・ジャーナル8月3日付)。世界中からマネーを集める新興有力ベンチャーで、その出資元などもお伝えする。

 同社は、2016年にサラ・ギルバート・オックスフォード大教授とエイドリアン・ヒル・同大ジェンナー研究所所長によって、オックスフォード大からスピンアウトする形で設立された。二人とも新型コロナワクチン開発の中心人物だ。

 バクシテックの技術の特徴は、チンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)を利用することだ。アデノウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子の一部を組み込んで、人体内に送り込む。複製能力はもたないため発症しないが、これが免疫系を刺激して、新型コロナウイルスに対する中和抗体を生み、ウイルスを攻撃するT細胞を強化するという仕組みだ(Wiredアストラゼネカ)。
 

常識外れの開発スピードのわけ

 ギルバート教授は、1月初めに武漢で新型コロナウイルスによる感染症が流行しているというニュースを聞いたときに、この技術を使うチャンスと考え、中国当局が1月10日に新型コロナウイルスの完全なゲノム配列情報を公開した直後に研究に着手した(同上Wired)。

 それからわずか3カ月後にワクチンの治験を始めた。いまは、第Ⅱ/Ⅲ相試験に入っており、まだ、その有効性、安全性が完全に確認されたわけではない。あまりに早い開発スピードに信頼性を疑う人も増えているようだが、チンパンジーアデノウイルスを遺伝子運搬体として利用する技術の蓄積があったからこそできた早業だった。

 バクシテックは、その技術を駆使して、MERS(中東呼吸器症候群)、子宮頸がん、B型肝炎などのワクチンを開発していた。その技術に将来性を見込んだグーグル、セコイア・キャピタル、中国、韓国などのマネーが新型コロナ感染拡大前からバクシテックに集まっていた(Vaccitech)。

 前出ウォールストリート・ジャーナルの記事が、そうした投資家情報を詳しく報じている。公開資料だけでなく、いろいろな関係者に取材して出資比率などを推計した労作記事で、会社名がたくさん出てくるので、表にまとめて整理してみた。

最大の株主は大学ベンチャーキャピタル

バクシテック、OSIに投資するファンドなど
①バクシテック(Vaccitech)    
ファンド名等 備考 株式保有比率
オックスフォード・サイエンシズ・イノベーション(OSI)   46%保有
ブラーボス・キャピタル 元ドイツ銀行員が2019年に設立 約9%(OSI株保有を通じて)
サラ・ギルバート オックスフォード大教授 ヒル氏と2人で約10%保有
エイドリアン・ヒル 同大ジェンナー研究所所長 ギルバート氏と2人で約10%保有
英国政府   500万ポンド
GV(旧グーグル・ベンチャーズ) アルファベット傘下  
セコイア・キャピタル・チャイナ    
ジーンマトリックス    
コリア・インベストメント・パートナーズ    
ライオン・トラスト(旧ネプチューン・インベストメント)    
(出所)Wall Street Journal、cruncbase、VaccitechHP    

 バクシテックの最大の株主は、オックスフォード大の関連会社であるオックスフォード・サイエンシズ・イノベーション(OSI)。46%と過半に近い株式を保有している。

 OSIは、オックスフォード大が2015年に設立したベンチャーキャピタルで、免疫学や量子コンピューティングなど先端技術を手掛ける新興企業78社に資金を提供している。

 バクシテックは、コロナワクチンをめぐり、オックスフォード大とロイヤルティー契約を結んでいる。同社のビル・エンライトCEOによると、同大からの報酬は、「マイルストーンペイメントに加え、ワクチン開発が成功すればかなりの額のロイヤルティーを受け取ることになっている」という。

「マイルストーンペイメントとは、節目の達成に応じて交渉済みの金額が支払われるもので、節目には通常、規制当局による承認が含まれる」。節目とは、第Ⅱ相試験で、好結果が出たとかいうことだろう。

来年にも株式上場

 創業者のギルバート氏とヒル氏も出資しており、二人合わせて約10%保有していると伝えている。英国政府の出資は、新型コロナ流行前か後かは、わからない。

 約9%を保有するブラーボス・キャピタルは、ドイツ銀行で現物株取引のグローバルヘッドを務めたアンドレ・クロフォードブラント氏が2019年に設立したばかりのファンドだ。南アフリカの大手投資ファンドからの支援を得ているという。OSI株も20%保有している。

 セコイア・キャピタルは、一般にはあまり知られていないが、世界最大のベンチャー・キャピタルで、アップルやグーグルなどのIT企業に早くから投資してきた抜群の目利きのファンド。セコイア・キャピタル・チャイナは、そのグループの一員で、中国で資金を集めているのだろう。

 コリア・インベストメント・パートナーズはその名の通りだが、ジーンマトリックスも韓国系だ。

 エンライトCEOや他の同社関係者によると、バクシテックは、「新たに5500万ドルを調達することを目指して投資家と協議しているほか、来年にも新規株式公開(IPO)を行うことも検討している」という。

OSIの資金源

 WSJの記事は、オックスフォード大のベンチャーキャピタル・OSIへの出資元も書かれていたので、表に加えた。日本でも、国立では、東北大、東大、京大、大阪大が、私立では、早大、慶大などがベンチャーキャピタルを有しており、投資先の中には、マザーズなどに上場を果たした企業も出ている。

②オックスフォード・サイエンシズ・イノベーション(OSI)    
ファンド名等 備考 株式保有比率
ブラーボス・キャピタル 元ドイツ銀行員が2019年に設立 20%近くを保有
オックスフォード大   5%を保有
ランズダウン・パートナーズ 英ヘッジファンド  
GV(旧グーグル・ベンチャーズ)    
セコイアキャピタルのパートナー    
復星国際(フォースン・インターナショナル)関連会社   2.7%
ファーウェイ投資子会社   0.7%
(出所)WSJ    

 OSIは、意外とオックスフォード大の投資シェアが低い。

 目につくのは、少量だが中国、ファーウェイの投資会社だろう。中国による香港民主派弾圧が拍車をかけ、欧米と中国との対立が鮮明化しつつあり、英国政府は7月に5G通信網からファーウェイの機器を排除することを決めたばかり。

 WSJの記者も気になったらしく、取材しており、「投資が行われたのは2018年10月で、オックスフォード大がファーウェイからの資金受け入れ停止を表明した2019年1月より前だった」という。いまは、中国マネーを受け入れてないそうだ。

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