EUがワクチン輸出規制に追い込まれたいきさつ

目次

ヤリ手の通商交渉担当者が裏目に

通商交渉なら成功だったが

日本には予定通りワクチン到着か

 新型コロナウイルスワクチンの輸出に規制をかけているEU(欧州連合)。ベルギーの工場で生産される米ファイザー製ワクチンなどの日本到着が遅れる心配が出ている。EUがワクチン確保にしくじったがゆえの輸出規制だが、なぜ、EUのワクチン計画はうまくいっていないのか。ウォールストリート・ジャーナル紙(2月4日)はEUのやり方のまずさを伝えている。

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ヤリ手の通商交渉担当者が裏目に

 欧州では、当初、ドイツ、フランス、オランダ、イタリアが共同でワクチンメーカーと交渉を進めていたが、昨年6月、EUの執行機関である欧州委員会(EC)が引き継いだ。「加盟27カ国が複数のメーカーからの供給を巡りそれぞれ競い合うことは避け、ECが一元的に交渉を担い、域内の住民約4億5000万人のためにワクチンを一括購入することを決めた。交渉力を高めることで、経済規模にかかわらず、どの国も手に届く価格で平等にワクチンを入手できるようにするのが狙いだった」。

 ワクチンの購入交渉などやったことがないECは、製薬会社との交渉にベテランの通商交渉担当者を当たらせた。これが功罪半ばしたらしい。「交渉について説明を受けたあるEU当局者は、早急に合意をまとめるのではなく、最善のディールを引き出すことに注力して調達交渉を進めていたと明かす」。深夜まで交渉が長引くことが珍しくない角突き合わせる通商交渉のやり口を持ち込んだのだ。

 交渉の重点も、ワクチンの価格を抑えることや副反応が起きた場合にメーカー側に確実に法的責任を負わせることに置いた。英米が、メーカーに対して提供した研究開発、生産力増強に向けての資金もEUは出し渋ったらしい。 

通商交渉なら成功だったが

 この交渉の結果、功罪の功の方は、価格面でEUは成功を収めたことだ。ベルギーの政治家がソーシャルメディアに投稿した価格リストによると、ファイザーとビオンテックが開発したワクチンについて、EUが支払う1回分当たりの単価は米国を大きく下回るという。通商交渉ならば成功に終わったと言えるだろう。

 罪はもちろんワクチン供給、接種の遅れであり、加盟国からEUに対する批判が強まっている。他国の政府は、補助金の提供や副反応を巡る法的リスク免除によってワクチンメーカーからの供給を確保したが、EUはメーカーをディールの相手とみなして交渉が停滞し、発注も遅れてしまったという。EUがファイザーと2億回分のワクチン購入契約を結んだのは昨年11月11日だった。

 また、治験があまり進んでいない複数のメーカーとも購入契約を締結するなど、調達先を広げすぎた。さらに購入したワクチンの承認も遅かった、ワクチン接種の遅れが目に見えてくると、交渉を再開するのではなく「メーカーたたき」に走ったことも裏目に出た、とウォールストリート・ジャーナルの記事は容赦なく問題点を明かしている。

日本には予定通りワクチン到着か

 EUは、承認したすべてのワクチン製造元(米ファイザー・独ビオンテック連合、米モデルナ、英アストラゼネカ)が製造上の制約から供給量が当初の想定を下回ると発表しており、域内政府はワクチン接種ペースを遅らせるか停止せざるを得ない状況に追い込まれた。 

 このため、EUは1月29日に、ワクチンの輸出管理策を発表した。出荷量や出荷先の報告を製薬会社に義務づけ、EUのワクチン確保が著しく脅かされる場合は、輸出差し止めも辞さないというものだ(朝日新聞)。

 EUの輸出規制は、日本におけるワクチン供給に「大きな影響が出ている」と河野太郎規制改革相が5日にも懸念を表明しており(日経新聞)、具体的な供給スケジュールを示せない元凶になっている。

 日本の購入先で、EU域内でワクチンを生産しているのは、ファイザーのほかに、英アストラゼネカもベルギー、オランダで生産している。

 2月6日の産経新聞電子版は、EC高官が同紙に対し、「EU域内から日本へのワクチン輸出は、認可された」と明らかにしたと伝えている。これで、予定通りかあるいは少し遅れてかワクチンは日本に届くことになるのだろうか。

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