EV時代前夜、マネーはリチウム電池に向かう

目次

1000億円を集めるバッテリーベンチャー

エネルギー効率50%アップ

CEOは、テスラ7人目の社員

 EV(電気自動車)の普及は、リチウムイオン電池の技術進歩にかかっている。バッテリーが性能アップもコストダウンもできなければ、「2035年にガソリン車廃止」といった目標は夢に終わる。日本ではパナソニックのような大企業がバッテリーの技術開発に取り組んでいるが、米国では、EV普及にかける技術力のある元気な新興企業が注目されている。

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1000億円を集めるバッテリーベンチャー

 そのひとつが、シリコンバレーにある「シラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies)」。リチウムイオン電池のエネルギー効率を最大50%アップさせる技術を持ち、一昨年4月には、独ダイムラーが推定1億ドルの出資を発表した(日経新聞)。

 独BMWや日本のTDKのグループ会社とも提携している。今年1月26日にも、5億9000万ドル(約610億円)を追加調達し、累計調達額は、約9億3000万ドルにのぼり、株式上場もしてないのに日本円で1000億円近くの資金が集まってくる(Forbes)。

エネルギー効率50%アップ

 自動車メーカーや投資家たちを引き付ける同社の技術は、リチウムイオン電池の負極の素材だ。いま普及しているバッテリーはグラファイト(黒鉛)を使っているが、シラはシリコンを使う。そうすると、エネルギーをためやすく、「現在の電池に比べてエネルギー効率を20%向上させ、最終的には50%の向上を実現するという」。また、既存の生産設備をそのまま使える「ドロップ・イン」方式であることも大きな魅力になっている(同上Forbes)。

 EVは、手厚い補助金を出してきた中国を除けばあまり普及していない。米国でテスラは健闘してきたが、これまで、EVと言えば、①ガソリン車に比べ価格がかなり高い、②航続距離が短い、③充電スタンドが少ない-だったから、消費者の好奇心は呼んでも、購買にまではつながらなかった。

 ①の価格が高いのは、バッテリーのせいだ。「EVはバッテリーがコストの半分を占める」と「週刊東洋経済」は、マークラインズの資料を使って伝えている。価格217万円のEVは、110万円がバッテリーコストだそうだ(2020年10月10日号66ページ)。

 ②もバッテリーの性能向上が必要だ。逆に言えば、バッテリーが飛躍的な技術
進歩を遂げれば、①、②の壁は崩れて、EVは普及に向かうはず。シラのシリコン負極技術は壁を突破しようとする試みのひとつだが、実用化されれば、バッテリーはコンパクト化され、EV普及に一役買うだろう。前出Forbesによると、シラはこう言っている。「シラのバッテリー素材はより軽く、より安全で、よりエネルギー密度の高い電池を製造することを可能にし、EVの製造コストの引き下げにつながる」。

CEOは、テスラ7人目の社員
 

 シラのCEO、ジーン・ベルディチェフスキー(Gene Berdichevsky)は、2004年にスタンフォード大を中退し、テスラの7人目の社員として、イーロン・マスクの下で働いた。テスラの初期のEVであるロードスターに様々なリチウムイオン電池を試していくなかで、電池の性能の向上ペースが鈍化し始めたことに気付き、「この業界にはブレイクスルーが必要だ」と考えたという。そこで、スタンフォード大に戻り、2010年に工学修士号を取得してから起業した(前出Forbes)。

 米国では、シラのようなEV向けバッテリー生産は新興産業だ。テスラはパナソニックと組んでバッテリーを生産しているが、この分野は中国が先頭を走り、EV関連部品は輸入に大きく頼っていた。しかし、自動車メーカー各社が米国内でのEV生産に向けて巨額の投資を行うにつれ、投資家の目は、バッテリーや関連素材などのサプライチェーン(供給網)を北米で拡大しようとする企業に熱い視線へと変わってきたという(ウォールストリート・ジャーナル)。新しい巨大市場への期待だ。

 バッテリー企業としては、このほか、米ロメオ・パワーが最近、資金調達を進め、昨年終盤に上場を果たした。やはり新興企業だ。また、リチウム採掘でカナダの鉱山会社リチウム・アメリカズが米国内で事業を展開、ネバダ州のリチウム開発向けに4億ドル相当の増資を行うことを1月に明らかにするなど、米国では、マネーがバッテリーに向かっている。

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