アップルは、利用料30%のアップストアで、どれだけ儲けているか

目次
利用料1%下げで、ざっくり利益500億円失う
ソニーが7月に2.5億ドル出資
訴状「アップルは、往年の独占企業よりも悪質」
粗利益率60%超
手数料1%下げると
譲歩しそうもないアップル

 アップルと米ゲームメーカー、エピック・ゲームズの対立が表面化してから1カ月。IT企業間の単なるもめごとにも見えるが、強すぎるGAFAへの風当たりが増す中、アップルの独占性も問う争いだけに興味をひかれて調べてみた。

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利用料1%下げで、ざっくり利益500億円失う

 対立の源のひとつは、アップルが運営するApp Store(アップストア)の利用料30%が高すぎるというエピックの不満である。もし、エピックらユーザーの要望に応じて、たとえば利用料を1%下げたら、アップルはどれだけ損をするのか。粗っぽい計算だが、純利益500億円程度が消えるのではないか。アップルの懐事情をのぞいてみよう。

ソニーが7月に2.5億ドル出資

 本論に入る前に、アップルと争うエピック・ゲームズという会社や対立の中身についてさらっと記しておこう。

 エピック・ゲームズは、一般にはあまり知られていなかったが、ゲームファンにはお馴染みの会社だったようだ。何しろ、同社が開発したアクションゲーム「フォートナイト(Fortnite)」は、世界に3億5000万人のユーザーを持つ。

 1991年創業で、本社は東部ノースカロライナ州にあり、従業員約2200人。同社の業績を支えてきたのは、企業向け製品のゲームエンジン「Unreal engine」だ。「最も成功したビデオゲームエンジン」としてギネス世界記録に輝いているほどで、同社の売上高42億ドルの多くは、「Unreal engine」によるものと推測されている(ゲームエンジンとは、コンピュータゲームの土台となるソフトウェアのこと)。

 中国のテンセント(SNSのウィチャットを運営)が2012年に3億3000万ドル出資して、4割程度の株式を所有しているとみられる。今年7月には、ソニーが2億5000万ドル出資した。IT業界でもその実力が認められた有望企業である(以上は、ビジネス+IT日経新聞)。

訴状「アップルは、往年の独占企業よりも悪質」

 アップルとの対立の始まりは、8月13日にエピックが人気ゲーム、フォートナイトを自社サイトで販売し始めたことにある。それまで、アップストアで販売していたので、ほかの場所での販売は許されていない。

 このため、アップルはすぐさま、規約違反としてフォートナイトをストアから削除した。これに対し、エピックの反応は速く、同じ日に、スマートフォンのアプリ内課金システムなどが独占に当たるとしてアップルを提訴した。訴状は「アップルは同社がかつて激しく非難していたものになっている。それは市場を支配し、競争を阻害し、イノベーションを抑えつけようとする巨大企業だ。アップルは往年の独占企業よりもさらに大きく、力強く、定着しているほか、より悪質だ」と主張している(ロイター)。

※フォートナイトは、グーグルのGoogle Playでも販売していた。フォートナイトを削除したグーグルもエピックから訴えられている。

 アップルの独占性を訴える動画も公開した。アップルが、1984年にMacコンピュータを発売したときのテレビCMをパロディ化したもので話題を呼んだ(YouTube)。ジョージ・オーウェルの『1984年』を題材に明らかにIBMを標的とした有名なCMのパロディだ。
 https://www.youtube.com/watch?v=7p4SlUmef6k

粗利益率60%超

 では、ここから、手数料の値引きの影響について考えてみる。

 アップルは、アップストアでアプリ製品を販売するユーザーに対し、利用料としてアプリ内課金の30%を徴収している。

「アップル税」とも皮肉られるこの課金はアップルにどれだけの果実をもたらしているのか。同社のForm 10-K(有価証券報告書)を見てみよう。
 

 2019年度(2018年10月~19年9月)の決算を見ると、アップストアなどのサービス部門の売上高は、462億9100万ドルで、全体(2601億7400万ドル)の17.8%と2割弱程度である。売上げの主役は、ハード製品群で、iPhoneの売上げ1423億8100万ドルを筆頭にMac、iPadなど80%以上をハード製品が占めている(19ページ)。

 ところが、利益面では、少し違う風景になる。全粗利益983億9200万ドルのうちサービス部門が295億500万ドルと30%を稼いでいるのだ。これは、サービス部門の粗利益率が63.7%と高いためで、ハード製品(Products)32.2%の2倍近い稼ぎ率になっている(21ページ)。

 サービス部門とは、具体的にはアップストアのほか、アップルミュージックやライセンスなども含んでおり、アップストアだけの数字はわからないが、大きな柱であることは間違いない。

手数料1%下げると

 そこで、乱暴と承知しつつ、サービス部門≒アップストアとみなして、アップストアの利用料を1%下げたらどれぐらいの減収減益になるか推測してみた。

 利用料30%を29%に値下げしたら、30分の1の減収になる。前述サービス部門の売上高は、462億9100万ドルだから、その30分の1、15億4300万ドルの売上げが減る。これに粗利益率63.7%を掛けて、9億8300万ドルの粗利益が減ることになる。約1000億円だ。

 粗利益1000億円の減益は純利益(最終利益)にどう影響するか。こう推測してみた。2019年度の決算では、全粗利益983億9200万ドル(約10兆4300億円)で、純利益552億5600万ドル(約5兆8600億円)となっている。

 この割合を約1000億円に当てはめてみよう。約561億円になる。つまり、手数料1%の値引きで、アップルの純利益は約561億円吹き飛ぶことになる。まあ、大体こんなもんかという大づかみの数字だが。

 この数字だけを見れば、相当な額である。おいそれと譲歩できる数字ではない。でも、6兆円近い純利益の1%にも満たない額だから、「利益率が高すぎる。ケチケチすんな、アップル」とも言いたくなる。

譲歩しそうもないアップル

 今回の争いに準備周到だったエピックに比べ、受け身だったアップルは、最近になって攻勢に転じている。9月8日に、エピックに対し、「失われた手数料収入や他の損害の賠償を求めて」反訴した。また、「エピックがフォートナイトのアプリ内に設けた自社課金システムの運用差し止め命令も求めている」(ロイター)。

 訴えの中身を見る限り、アップルは、現状の商慣行を継続し、変えるつもりはなさそうだ。法律の専門家は、エピックが法廷で勝つのは難しいと見ている(Fortune)。

 今回の対立劇は、登場する役者は重量感があり話題性はある。とは言え、いまのところ、この対立がIT業界を大きく変える感じはなさそうだ。

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