ファーウェイCEO、異例の取材に応じるも、納得できる説明はなかった

副会長である娘がカナダで逮捕されたファーウェイの創業者、任正非(Ren Zhengfei)CEOが15日、外国メディアの取材に応じた。同氏はメディアにめったに登場することがなく、外国メディアの取材を受けたのは、2015年以来のことという。

娘の孟晩舟氏逮捕や、同社の通信機器が安全保障上の理由で米国やオーストラリア、ニュージーランドで使用を禁止されるなど、「ファーウェイ外し」の動きが世界に広まろうとしている(ロイター)。

そんな情勢に危機感を感じた末の異例の対応だったようだ。取材は、ファーウェイ深セン本社内の、緑と金のシャンデリアが輝く会議室で行われた(ウォールストリート・ジャーナル)。日本のメディアは呼ばれなかったようで、英語圏、特に米国に向けてのメッセージだったのだろう。

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企業に不正を強いる法律はない

ファーウェイに対する警戒の理由は、ひとつには、同社の通信機器製品にデータを流出させるバックドアが仕組まれているという疑念、もうひとつは、中国政府とのつながりに対する疑念だ。

後者については、中国が近年施行した国家安全関連の様々な法律が疑念の根拠になっているが、とりわけ、2017年6月に施行した国家情報法の第7条が問題視されている。「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」(中国の国家情報法、国立国会図書館)と規定しており、場合によっては、企業も国の情報活動のメンバーに組み込まれる可能性があるわけだ。

中国政府の官僚、とりわけ軍人も含む安全保障関係の官僚にとっては違和感がないのだろうが、先進国では、ありえない。米企業が秘かにCIAに協力をしているかもしれないし、さもありなんとも思う。だが、実際にメディアの手で明るみに出れば猛烈な批判を浴びるだろう。ましてや法律に明記されるなんて問題外。それが市民感覚だ。

こうした中国企業、そしてファーウェイに対する疑念に任氏はこう答えたという。
<「企業に不正を強いる法律は中国にはない」とした上で「私個人も、顧客の利益を害するようなことは決してしない。私と私の会社は、そのような要請には決して応じない」と強調した。>(同上ウォールストリート・ジャーナル)

記者たちは、「そうは言っても、国家情報法に基づいて政府が情報活動の協力を要求してきたらどうするのか」と突っ込んだと思うのだが、<任氏は中国政府の要求をいかに退けるかという点については具体的に説明しなかった。>と外国メディアが納得する説明はできなかったようだ。

任氏の発言の全貌がわからないので断定はできないが、ウォールストリート・ジャーナルのほか、時事通信ビジネス・インサイダーの記事を読んでも、たいした内容はなく、会見にはほど遠い顔見せ程度の場だったようだ。

もっとも、任氏に多くの発言を望むのは無理な注文かもしれない。10兆円を超える売上高を誇る巨大企業でも中国では政府の要求に楯突くのは難しい。国内の主要メディアは味方してくれるどころか攻撃してくるだろうし、国民もネット上での発言を禁じられる。政府に勝とうとすれば、政権内の権力闘争の一派に結託するしかなさそうだ。でも、いまは習近平主席に権力は集中している。そもそも任氏は権力闘争を志向するタイプでもない(後述)。

任氏は、こんな発言もしている。
<ファーウェイは純粋に従業員が所有する企業だとあらためて強調した。株主は9万7000人近くに上るが、外部の主体は同社株を一切保有していないと説明した。>
<「社外で当社の株式を保有する投資家はいない。1セントたりともだ」と強調した。>
ファーウェイは非上場だ。政府だけでなく株主など外部勢力からも経営を左右されない、独立した企業であることを強調したかったのだろうか。先進国の感覚であれば、株式市場に公開され、利害関係者やメディアの目があるから経営の透明性が保たれ、ガバナンスが保たれると考えるのだが、ちょっとずれてる。

若者に人気のファーウェイ

任氏は、1944年貴州省の極貧の片田舎で生まれた。重慶大学で建築学を学んでいた時に文化大革命が起き、中学校の教員だった父は逮捕投獄される。その後、独学で電子工学を学び、1974年、繊維工場の建設担当として人民解放軍に入った。しかし、人民解放軍の100万人削減の影響で1983年に解雇されてしまい、退職金や借金で1987年に深セン市内のアパート2階でファーウェイを立ち上げた(「『中国製造2025の衝撃』、遠藤誉著、PHP研究所 93~94㌻)。

ファーウェイは、確かに政府に頼らず自らの道を切り開いて世界的な企業に成長したようだ。任氏も「自分は総裁ではなく一工程師(技術者、エンジニア)だ、という言葉を使うのが好き」な技術者魂の持ち主だそうだ。そして、世界トップ水準の電子、通信技術を誇っている。そうしたところが中国でも人気らしい。

上記、遠藤氏の書によると、中国の若者たちに「華為(ファーウェイ)に関してどう思うか」と尋ねると、「私たちは華為を応援しています。華為は頑張っていますよ」という答えが戻ってくるという。

それと対照的に、米国に制裁された点では同じ、ZTE(中興通訊)は嫌われているそうで、「ZTEはバカなんですよ。誰もZTEには同情していません」とほとんど異口同音に冷たくあしらわれるという(同上89㌻)。

ソニーの井深大さん、ホンダの本田宗一郎さんに近いイメージなのだろうか。そんな創業者の会社が手を汚してほしくないが、汚すかもしれない環境に置かれているのも現実だ。