専門家を驚かせた「中国、ロシア爆撃機のランデブー」

竹島上空を「領空侵犯」したロシア軍機を韓国戦闘機が警告射撃した事件は、射撃そのものよりも、ロシアと中国の爆撃機4機がランデブーしたことにちょっと驚いた。あまり聞いたことがない。そこで調べてみたら、専門家も驚いている。まずは、事件の経過を追ってみる。

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日韓中ロ30機超が入り乱れ、緊迫

写真1 中国H-6爆撃機 撮影=航空自衛隊

写真2 ロシアTU-95爆撃機 撮影=航空自衛隊

警告射撃が発生したのは7月23日午前9時すぎだが、それより前、すでに中ロの共同作戦は始まっていた。6時44分前後に中国軍爆撃機(H-6=写真1)2機が済州島付近の韓国防空識別圏(KADIZ)に進入した(図の①赤線)。中国軍爆撃機は北上し、朝鮮半島東側の日本海で、ロシアの爆撃機(TU-95=写真2)2機と合流(図の②オレンジ線)、中国とロシアの爆撃機計4機が同時に韓国KADIZに進入し、9時4分ごろ、KADIZを抜けた(聯合ニュース)。図は日本の防衛省発表資料だ。

ロシア、中国機の飛行経路 防衛省発表資料

中ロ4機が一緒に飛んだのは、朝鮮半島東方沖から沖縄西方沖の東シナ海までの千数百キロもの長い距離だ。これまでになかったことで、自衛隊も基地のレーダーを見て、戸惑ったのではないか。

韓国は、中国機がKADIZに近づいた時に、すでにF-15、F-16戦闘機を緊急発進させたのだと思うが、ロシア爆撃機2機とは別に東からロシアA-50早期警戒管制機(写真3)が竹島に接近、午前9時9分と9時33分に領空を侵犯した。竹島の領土権を主張する韓国は、A-50の1回目の領空侵犯時には、信号弾10発、機関銃80発を発射、2回目には、信号弾10発、機関銃280発発射した。ロシアと韓国の間で、こうした事案が発生したのは初めてだった(BBC)。

日本もスクランブルをかけたが、朝鮮日報の報道によると、韓国軍から18機、日本から10機程度の戦闘機が出動したという(共同通信)。竹島周辺の上空を日韓中ロ合わせ30機以上の軍用機が飛び交った。中ロの不可思議な同時飛行も加わり、現場上空も基地も相当の緊張感に包まれたに違いない。

ロシア国防省は、声明を発表し、一連の行動が、ロシア軍機と中国軍機による共同の警戒監視活動をはじめて実施したことを明らかにした。声明は「今回の活動はロシアと中国の包括的な関係を発展させ、双方の軍の共同活動の能力を高め、そして、世界の戦略的安定を強化するために行われたものだ」としている(NHK)。

中ロ軍事協力協定締結へ

中ロが東アジアで共同の警戒活動に初めて踏み切った、その裏にはどんな狙いがあるのだろうか。国際的にも関心が高まっている。

中ロが軍事面で協力関係を強化しようとしているのは間違いない。今回の共同行動の前日に、ロシア政府は、国防省に中国と軍事協力協定を結ぶ交渉を始めることを許可しているのだ(小泉悠・東大先端科学技術研究センター特任助教、AbemaTIMES)。

ロシアの安全保障政策が専門の小泉助教は、「中ロが共同で爆撃機を飛ばすというのはかつてないことで、非常に気になる」と新しい動きに注目し、「両国が同盟まで行くということは考えにくいが、それでも軍事協力を格上げすることによって、アメリカを脅す、日米間の結束を乱すという戦術が有効になるので、同様のことはこれからも起きるのではないか」(同上)と見ている。

中ロの軍事協力なんて、新聞、テレビのニュースではほとんど報じられることはないので、よく知らなかったが、ここのところ親密さを深めているそうだ。

米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は、18日に「2週間前、ロシアの爆撃機2機が台湾周辺を飛行した。この行動について、中国は警告を発していない。つまり、ロシアが事前または行動中に中国の黙認を受けたことを意味する」「中国とロシアは、インド太平洋地域の自由で開かれた国際秩序と全世界秩序に異議を唱え、挑戦している」と語っていた(大紀元)。

先の小泉助教も、「クリミア危機以降、南シナ海に一緒に軍艦を入れたり、去年はヴォストーク2018という大演習に中国の人民解放軍を参加させたりするなど、軍事的接近を図ってきた」と指摘する。これまで、ロシアは、中国と軍事的な関係性をあまり深めたくないというトーンだったが、ロシア側に変化が起きてきたという(同上Abema)。

日米韓軍事体制に対抗

東アジアでの、中ロの軍事協力の狙いは、もちろん、米国を基軸とする日米韓の軍事協力体制への対抗だろう。

ソウルの民間シンクタンク世宗研究所の上級研究員、ホン・ヒュンイク氏は、「これは米国、日本、韓国へのメッセージだ:もし日米安全保障同盟を強化すれば、われわれも軍事的に対応する以外にない、ということだ」とロシアの行動の裏にあるメッセージを読む(ウォールストリート・ジャーナル)。

領空侵犯の場所を日韓双方が領土と主張する竹島を選んだのも日韓の溝をさらに深くさせるためとも考えられる。ロシア軍はアジアに疎いだろうから、中国軍の知恵者のアイデアに乗ったのではと想像したくなる。

中ロの今回の共同行動が、「かつてないこと」であることはわかったが、今後、東アジアのパワーバランスに影響を及ぼす--たとえば、ロシアが中国の南シナ海進出を公然と認めたり--ほどに発展するかどうかが今後のポイントだろう。当面は、交渉が始まる中ロ軍事協力協定の行方が判断材料として思いつく。

曲者同士の中ロが同盟国になるまで親密化するとも思えないが(Kobaちゃんの硬派ニュース)、お互いの当面の利害のために、期間限定で、結束を固めることはありそうかな。少なくとも表面上は、結束をアピールしてきそうだ。