AIだけでなく自動車も「強国」へと突っ走る中国

前回ブログでは、中国が「AI強国」に向けひた走っていることをまとめたが、強国への渇望はAIだけではない。世界的な大変革期を迎えている自動車産業でも中国は同様の野心を抱いている。

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10年で「自動車強国」を宣言

中国政府は、2017年4月に「自動車産業の中長期発展計画」を発表し、2020年までに世界に通用する「中国ブランド」を構築し、「自動車先進国」に輸出することを目標に据えた(『2022年の次世代自動車産業』田中道昭著、PHPビジネス新書 211㌻)。

そして「10年の取り組みにより、自動車強国の仲間入りを目指す」という全体目標を掲げ、かつ6つの詳細な目標、6つの重点任務、8つの重点プロジェクトを打ち出した(中国網)。

中国の自動車市場は、昨2018年は新車販売台数が28年ぶりに減少に転じたが、それでも2800万台と2位の米国1700万台をはるかに上回る自動車大国で、「中長期発展計画」もそう位置付けている。

そのうえで、同計画は、大国を強国にするには、コア技術やブランド力の強化が必要で、これから10年間を掛けてコア技術、部品供給、ブランド力、新業態の創出、自動車の輸出、環境保護などの面で躍進させるという(日経XTECH)。

そして、中国の国を挙げての自動車戦略で特徴的なのは、すでに日米欧の企業が優越するガソリン車の分野ではなく、電気自動車(EV)などの新エネルギー車(NEV)や省エネ車、コネクテッドカーを競争の場にしようとしている点だ。これらを3大重点突破分野として、3分野で国際的な競争力を持つ企業を育成し産業全体のモデルチェンジとアップグレードを行う(同上中国網)。

中国は新エネ車の普及に以前から取り組んでおり、2017年の「中長期発展計画」の前にも、「省エネと新エネルギー自動車産業育成計画(2012~2020 年)」を策定している(旭リサーチセンター)。
それにしても、中国はすぐに計画を立てたがる。

この計画に沿って、政府は、2013年からは新エネ車に対して補助金を支給している。また、大気汚染や渋滞防止のため、車の増加を抑えようと北京や上海などの大都市で、ナンバープレートの取得を制限しているが、新エネ車の購入者にはナンバープレート取得を優先させている。さらに自動車を供給するメーカーに対しては、2019年以降、販売台数の10%以上を新エネ車にすることを義務付けている。

こうした普及政策が追い風になって、新エネ車の累計販売台数は65万台と、世界総計200万台の3割超のシェアにのぼる(2016年時点)(『次世代自動車産業』260㌻)。

その一方で、政府の普及政策のせいでEVメーカーが乱立したため業界淘汰を進めて20社ぐらいに絞り込む方針だという(同書252㌻)。

次世代自動車をめぐっては、EVとFCV(燃料電池車)の戦いがあるが、EVが制するだろうという見通しの『EVと自動運転』(岩波新書)については過去に紹介したので、ご興味のある方は、こちらへ。

AI強国と結びついたバイドゥの「アポロ計画」

中国の自動車産業政策はAI強国路線とも結びつき実行に移されている。中国の検索エンジンで圧倒的なシェアを誇るバイドゥ(百度)による自動運転プラットフォームを開発する「アポロ計画」である。

バイドゥが2017年4月に打ち出したもので、自社が保有するAI技術、ビッグデータ、自動運転技術を提携相手にオープンにし、自動運転システムを構築する計画だ。

この計画は政府が国策として全面的に支援している。2017年11月に政府が公表した「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」の中に、国策のAI事業として四つのテーマが設定され、委託する企業が指定された。

AIの四つのテーマとは、「都市計画」「医療映像」「音声認識」「自動運転」で、バイドゥに自動運転事業が委託された。

提携相手には、中国の自動車大手、第一汽車、東風汽車やEVメーカーとして有名なBYD、海外からは独ダイムラー、米フォード、韓国ヒュンダイ、日本のホンダなど、そうそうたる企業が名を連ね、部品メーカーやNVIDIAのようなAI用半導体メーカー、クラウドのマイクロソフトなど数多くの企業も参加している(同書215㌻)。

ライドシェアの完全合法化

このほか、米ウーバーが展開するライドシェア事業を中国でも完全合法化する法律を2016年11月に施行するなど、次世代自動車産業の中核となる「CASE」の環境を着々と進め(同書254㌻)、自動車強国に突っ走っている。

※CASEとは、インターネットとの常時接続(Conected)、自動運転(Autonomous)、共有・シェアリング(Sharing)、電動化(Electric)の頭文字を取った略。

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