国をあげて「AI強国」へと突っ走る中国 「米中二強」の様相に

「今後10年で、AI(人工知能)やロボットは雇用機会を増やすでしょうか」と聞かれたら、「いいや、増やすどころか減らすだろう」と答える日本人の方が多いだろう。AIは人の仕事を奪うと否定的に考えがちだ。ところが、中国人に聞いてみると65%の人が「増やす」と答える。AIに楽観的なのだ(中国網)。

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突出する中国の楽観ぶり

電通イージス・ネットワークなどが10カ国の2万人を対象に昨年行った調査でわかった。ネット上に原データがあったので、それを見ると中国の楽観ぶりは10カ国の中でも突出している。中国の65%に次ぐフランスは35%で、10カ国平均は29%。米国23%、日本22%、一番低かったのは英国とドイツの18%だった(17㌻)。

AIの普及を促すのは単に技術の進展だけではない。19世紀英国のラッダイト運動のように社会がイノベーションの受け入れに否定的では普及が遅れる。その点、中国の社会はAI化の進展に積極的だ。

中国政府が「AI強国」に向けて突き進んでいるせいである。恐らく国民にはAIについてマイナスイメージの情報は流さないのではないか。調査結果の数字は歪んでいるとも言えそうだが、案外、中国の認識が正しく、日米欧が悲観的すぎる可能性がないとは言えない。

AIが脚光を浴び始めた頃、「AIは仕事を半減させる」というオクスフォード大の研究が日米欧の社会に大きなショックを与えたからだ。しかし、その後、研究には疑問符が付けられているが一般社会にはあまり知られていないからだ(いまや過去の神話)。

そして、中国がAI強国化に成果をあげつつあるのも事実。たとえば、AIの研究開発競争は、いまや「米中二強」の様相だという(日本総研、田谷洋一副主任研究員  124㌻)。

強さの指標はいろいろあるだろうが、日本総研のこのレポートは、AIに強い大学のランキングをあげている。AIの研究指導を行う大学は、世界に367校あるが、AI学者数、論文数でランキングすると、上位20の大学に、米国の大学が13校(注)、中国は北京大学(12位)、清華大学(16位)、香港科学技術大学(17位)の3校がランクインしている、日本は14位の東京大学だけだ。

(注)上位8校を米国の大学が占める。トップのカーネギーメロン大学からカリフォルニア大学バークレー校、ワシントン大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、コーネル大学、ジョージア工科大学、ペンシルベニア大学と続く。

「二強」と言ってもまだまだ米国に圧倒的に差を付けられての二番手だが、特許の出願件数はいまや中国が米国の2倍以上に達している。中国のAIなどハイテク開発力の旺盛さを物語る数字である(中国138.2万件、米国60.7万件、日本31.6万件=2017年、Science Portal China)。米国は脅威に感じているし、米中貿易紛争の一因がハイテク覇権争いという説明にも納得が行く。

個人情報の提供に抵抗ない

社会にもAIが入りつつある。たとえば、監視社会・中国らしいAIの導入の仕方だが、河南省鄭州市の駅には、グーグルグラスそっくりなスマートグラスをかけた警察官が立っている。顔認証でデータベースに登録されている犯罪容疑者をチェックしているのだ(ギズモード)。

中国のベンチャー企業が開発した「Face++(フェイスプラスプラス)」と呼ぶ顔認証技術にAIを搭載したシステムも警察で使われている。

今年1月、17年間逃げ延びていた殺人犯の女が、高速道路の事務所にトイレの場所を尋ねようとドアを開けた瞬間、警報が鳴って、上海市公安局に捕まった。この顔認証システムの成果だった(COURRiER)。

犯人が捕まるのはいいとしても、公安の監視が強まりすぎるのを国民が歓迎するかは疑問だが、中国は企業が個人情報を集めることにあまり抵抗がないらしい。なので、ビッグデータを取得しやすい(日本総研同上131㌻)。そもそも、政府が国民一人ひとりの経歴や懲罰等を記載する「人事档案(タンアン)」と呼ばれるファイルを管理しており、個人情報は誰かに見られているという意識が強いという(同135㌻)。デジタル社会に進みやすい素地があるのだ。

AIを経済成長のエンジンに

中国政府はAIを国家の経済成長や国際競争力強化のエンジンに育てようとしている。2017年7月に政府が公表した「次世代AI発展計画」はAIをそう位置付けているという(同113㌻)。

高成長を続けてきた中国経済が減速段階に入り、成長を支える新エンジンが必要になった。AIは単に経済を効率化させるだけでなく、広汎な産業のスタイルを変えることで新たな付加価値を生み出すことに期待を欠けているのだ。

日本もAI、ロボット、IoT社会に向けて政府は「Society5.0」の目標を掲げているが認知度は低い。大丈夫だろうか。日本のAI研究の第一人者、松尾豊・東大特任准教授も「人工知能開発競争の中心にいるのが、米国や中国」「現状は、基本的にもう勝ちようがありません」と嘆いているのだ(「なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか」 AI+)。