香港デモ 「中国の解放軍出動」を抑止する二つのブレーキ

民主化を求める香港デモは、香港国際空港ロビーに座り込み、8月13日には、国際便をストップさせる事態に発展した。日本でも全国紙が一面で報じ、国際社会の耳目を集めたが、一方で、国際世論の支持を失う恐れもある捨て身の戦術に見える。

デモは何を求めている

香港民主派は、「逃亡犯条例改正」を事実上、葬り去った。にもかかわらず、さらに何を求め、孤立化のリスクを冒してまで空港内座り込みに突き進んだのだろう。

デモのリーダー格であるアグネス・チョウ(周庭)さんは、8月12日夜、香港政府の対応にこう不満をぶつけた(ビジネスインサイダー)。

「この3カ月間、私たちは5つの要求を掲げて戦ってきましたが、香港政府はずっと無視し、警察はどんどん暴力的になっていきました」

「5つの要求」とは、こういうことらしい(MONEY VOICE)。
1.逃亡犯条例改正の完全撤廃
2.独立調査委員会の設立と警察による暴行責任の追及
3.抗議者への監視や検問の停止と撤回
4.6月12日に行われた集会を「暴動」と位置づけたことの撤回
5.林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の辞任と普通選挙の実現

林鄭長官が辞任すれば、中国政府が世論の圧力に屈する前例となってしまう。新疆ウィグルやチベットなどにいる反政府勢力を勢いづかせるかもしれない。普通選挙の実現など、中国共産党一党支配の基盤を崩すような要求を中国政府は到底認めることはできないだろう。

求めても得られそうにない民主派の要求だが、その要求の根底にあり、民主派を突き動かしているのは「香港の中国化」への危機感である。香港は、周知のように、「一国二制度」を50年間続けることを条件に1997年7月1日、英国から中国に返還された。香港に高度な自治を認め、中国の社会主義体制とは異なる制度を保証した。

しかし、習近平政権になってから、中国化が進み、香港の自由が奪われ、二制度の保証が怪しくなってきた。NHKの6月の「クローズアップ現代+」は、中国政府による拘束を恐れる香港人の危機感など、香港社会の反中国色を伝えている。

高まる軍事介入の心配

中国政府と香港民主派の間に横たわる溝は、話し合いでは解決できないぐらいに深いだけに、中国の直接介入が心配される。トランプ大統領は、13日「米情報機関によると中国政府が部隊を香港との境界に送り込んだ」とツイッターに書き込んだ(日経新聞)。

もっとも、「部隊集結」は、デモ隊の空港内座り込みがきっかけというわけではなくて、すでにブルームバーグが7月31日に「トランプ米政権の高官は匿名を条件に、中国の部隊が「集結」していると記者団に語った」と伝えていた。

中国は、7月末から、「次は、武力弾圧だぞ」と威嚇するような
メッセージを出し続けている。こんな感じだ。

7月29日 中国国務院の香港マカオ事務弁公室が、1997年の設立後初めて記者会見を開き、「暴力行為は決して許さない」と語る。
8月1日 人民解放軍の香港駐留部隊が、デモ隊制圧の演習場面を微博にで公開。
8月12日 「人民日報」が、微博やTwitter上で、深セン市に武装警察の車両部隊を集結させている動画を投稿。
香港マカオ事務弁公室の楊光報道官が記者会見し、「過激なデモ参加者が警官を攻撃した。重大な犯罪であり、テロリズムの兆候が出始めている」と語る。

法的制約と国際社会の目

では、本当に中国はデモを弾圧するために人民解放軍や武装警察を出動させるだろうか--専門家の見方は否定的だ。

そう考えるのは二つの根拠がある。ひとつは、法的な制約だ。

香港の「ミニ憲法」と言われる基本法は、中国の軍隊の出動について、香港政府の要請があったときだけ、と定めている。その目的も「社会秩序の維持と災害救援」に限られる(BBC)。中国が独自の判断で、軍隊を派遣するわけにはいかないのだ。

ならば、香港政府は要請するだろうか。
「かなり中国寄りの政府でも、これを要請することはまずあり得ないというのが、大方の専門家の見解だ。
香港の街中を中国の軍隊が行進し、民主化デモを潰すというイメージは、たとえ銃などの武器を使わないにしろ、香港の評価を失墜させる。それが引いては、経済を不安定にし、国際的な非難も引き起こす」(同上BBC)。

要請は、香港自滅の道であり、香港市民は、中国の完全傘下に入ったと感じるだろう。香港政府への信頼感は全く失われる。

もうひとつの根拠は、予想のつかない混乱への恐れ、効果への疑問だ。

豪マッコーリー大学で中国を研究するアダム・ニ氏は、「中国が軍事介入をした場合、国内的にも国際的にも政治的リスクがあまりに大きく、しかも事態を悪化させるだけ」「軍事介入は圧倒的なものでない限り、ますます抵抗を呼ぶことになる」と話す(同上BBC)。

豪ラトローブ大学でアジア調査関連のエグゼクティブディレクターを務めるユアン・グラハム氏も、同じ見方だ(ブルームバーグ)。

「中国政府が行使し得る他のあらゆる手段を使い果たしたと感じるまで、人民解放軍を動員して抗議行動を鎮圧する公算は小さい」

「結局のところ、習主席は天安門の大虐殺を繰り返したとの汚名を着せられたくない」

習政権の内外には力で押し付けようとする強硬派もいるはずで、習主席はそうした圧力をかわしながら、香港デモを屈服させる道を探るつもりだろう。

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